違った物語も、悪くない。
寒がりさん(ロー→ルフィ)
お前の手の温もりは別の人のものだと知っていたけど。
それでも寒いからおれは、また手を伸ばすんだ。
この手を伸ばしたら、どうせお前はまた笑ってこの手をとるんだろう。

寒がりさんにあいの手を

北の海出身だから寒いのは得意。別にそういう事はない。
どちらかと言えばおれは寒がりだし、寒いのは好きではない。
「…まぁそんな事はどうでもいいか」
ふう、と少し空を見上げながら息を吐いた。
自分の息が白くなるのをじっと見つめて、その後服の襟元に顔を埋める。
自分の船以外に乗るのはほぼ初めてで、どうにも居心地が掴めない。
しかも麦わら屋の船。クルーも船長もよく掴めない連中ばかりだ。
海賊の癖にいいやつ。お人好し。そんな言葉が似合いそうな連中。
少なくとも自分とはかけ離れた存在で。
「…だから、惹かれるのか」
思わず口から溢れた言葉に少し気恥ずかしい気持ちになり、より一層襟元に顔を埋める。
惹かれるとかそういう恋愛感情に似たものを持ったものがない分、初めて知る感情を持て余してる所もあるけど。
麦わら屋と、どうにかなりたいとは思わない。
ただ、時々寒くなる。どの辺とはわからないけれど、確かにこの体のどこかが凍える。
そんな時たった一度触れた手のぬくもりにもう一度触れたいとは思う。ただ、それだけ。
他のクルーに触れるのと同じ、特別な感情もなにもない麦わら屋との接触。
その接触がおれ一人のモノになれば、と思うときもあったけれど今はまだ今のままでいい。
「あれ、トラ男何してンだ?」
ひょこ、と頭上から麦わら屋の顔が降りてくる。
「ッ!」
丁度考えてた人物が急に視界に入ってきて驚きのあまり少し後ずさる。
「ッ…んだ、麦わら屋ッ、急に出てきやがって…!!」
平然を装おうとするが声は少し裏返る。麦わら屋は特に何をするでもなくひょい、とおれの前に降り立って「飯!」と完結に用件を言い放つ。
そのあっけからんとした姿に何も言えず呆然と麦わら屋の事を眺めていると「ん」と手が差し伸べられる。
「…?」じっとその手を見ていれば麦わら屋が「早く行くぞ!」と急かすように手をひらひらと動かす。
そこでようやくああ、掴めってことかと理解してその手を借りることなく立ち上がる。
手を借りられなかった事に憤る事もなく麦わら屋は満足気に「しし」と笑っておれの前を歩く。
おれは知っている。麦わら屋は誰にでも分け隔てなく手を差し伸べる。そしておれが手を伸ばしても同様にその手を迷うことなく笑顔で掴む事も。
それは麦わら屋にとっておれという存在が一人の友達として好意をもたれてるという喜ぶべき事。
そして同時に麦わら屋にとって他のクルーと変わらない、どう頑張っても特別な存在にはなれないという悲しむべき事。
それを知ってるからおれは手を掴まない。手を伸ばさない。今はまだ。
今は誰かの温もりを残したままで、誰かと同じ存在を残したままで良いから側にいてほしいと思う。
いずれは必ず奪ってやろうと思うけれど、今はまだこのままでいい。このままがいい。
「トラ男!またあのおもしれぇ技やってくれよ!」
屈託のない笑顔で笑う麦わら屋の麦わら帽を軽く撫でる。
「お前はおれの能力をなんだと思ってやがる」
おれも軽く笑って麦わら屋の隣を歩く。
凍えるような寒さはもうどこにも残ってない。さっきまでの寒さなんて微塵も感じられない程暖かい。
             -fin-
寒がりさんに愛の手を。

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