違った物語も、悪くない。
体温(快新)
手を握りしめたまま俺は目を閉じる。
このままでいたかったんだよ。

体温

まだ体温の残った右手。
その右手を眺めて快斗は自嘲気味に笑う。
先ほどまで手を繋いでいた、この右手。
拳を握り締めて目を硬く閉じる。
不意に頭の中を駆け巡る可愛くない彼の言葉、彼のはにかんだ笑顔、彼の何気ない仕草。

先ほどまで、ここにいた彼。
「寂しいなぁ…」
ベッドに体を預けた体勢のまま、小さく呟く。
大きく深呼吸して腕で顔を覆う。
「……あー、ヤダヤダ(もうちょっと握っていたかった、なんて)」
ふっ、と薄く笑みを浮かべて考えるのをやめる。
何かを思い出したように小さく呟く。
「………………今更言っちゃいけないよね」
そんなことを言った後に、「女々しいなぁ」とかぶつぶつ喋る。
「あれれー?随分女々しくなったんじゃないの月下の奇術師」
後ろから嫌みったらしくも愛しい声が聞こえる。
「何々?俺がいなくてちょっと寂しいなーとか思ってたわけ?」
「嫌別に?そういうわけじゃねぇけど」
強がりでそう返してみると名探偵はいたずらっぽい笑みを浮かべた後何度か頷き眉をあげる。
「へぇ〜…そう、なら俺帰るわ。じゃ」
手をひらり、と動かし入ってきた扉を再び戻ろうとする。
「ッと待った!…いや待たなくてもいいけどッ…!!」
曖昧な言葉で呼び止めてみると、早速訝しげな視線で彼がこっちを見てくる。
「どっち」
「………出来れば待っていて欲しいですそして可能ならばこっちに来ていただきたいです」
片手を伸ばし引き寄せるような微妙な体勢のまま懇願する。そんな快斗に満足したのか「よろしい」と柄にもない台詞を言う新一。
そしてベッドに座る快斗の隣にちょこんと座り、片手を出す。
「ん」
その手をじっと眺め「?」と首を傾げたまま快斗は握手の体勢を取る。
「そうじゃなくて、手、つなげなくて寂しかったんだろ?」
わかったような口ぶりではにかむ。さっきまでの寂しさはどこに行ったんだろう。新一の笑顔ですべてが幸せに思える。
「…サンキュ」
「月下の奇術師が寂しくてごろごろしてるところが見れりゃ十分だ」
再びいたずらっぽい笑みを浮かべる彼と手を繋いだまま、もう片方の手で抱きしめる。

さっきまでお留守だったぬくもりが帰ってくる。
「おかえり、新一」
「ただいま、快斗」
抱きあった体勢のまま、二人は互いの存在を確認するかのようにより一層強く抱きしめあった。
                   -fin-
そんな快新も好き。あくまでも快新のつもりです。


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