違った物語も、悪くない。
転職(K新
「よォ、名探偵」
月下の奇術師はいつもと同じように不敵な笑みを浮かべながら、屋上フェンスに悠々と立ちマントをたなびかせた。

天職

「相変わらず憎たらしい面してんなてめェ」
「それを言うならてめェは相変わらず可愛くねぇ面してんな」
見上げながら言い放つ制服の青年と見下ろしながら言い放つシルクハットの青年。
「残念。俺はてめぇに可愛いと思われたくねぇから可愛くねぇ面で結構だ」
「残念。俺としては結構気に入ってるんだけどなぁ?」
噛み合わない会話。どこかずれている会話。
「いいから、とっとと捕まれっつってんだよ」
「俺さぁ、思うんだけど。探偵って仕事の割に合わないんじゃねぇの?」
急に話を反らす、月下の奇術師。
急に反らされて目を点にする名探偵。
「はぁ?何の話だ」
眉を顰めて首を傾げて奇術師に問う。
「探偵の仕事ってさぁ、来るときと来ないときの差は激しいし人からの恨みは買いやすい。それって、割にあわねぇんじゃねぇ?」
憎たらしい笑みを浮かべながら、探偵を見下ろす怪盗。
高いところから悠々と探偵を見下ろし、腕を伸ばし手のひらを空へ向け、指さす。
「お前、憎まれすぎていつか刺されるんじゃねぇ?」
くすくすと笑えない冗談を言って探偵の反応を待つ。
「確かに」
探偵は恥じることも、後ろめたく思う様子もなく、はっきりと言い切った。
「探偵の仕事は割に合わねぇ。でも、依頼なんて自分から探せばいいし自分の身は自分で守ればいい。俺は探偵でよかったよ」
しっかりした意思で怪盗に言い切る。更に、言葉を続ける。
「だから俺はてめぇを捕まえると決めた。自分から探した仕事だ。悔いも何もねぇよ」
「うーん、そう言い切られるとますます可愛くねぇな」
相変わらず減らず口を叩く怪盗。流石に勘に触ったのか探偵の表情が険しくなる。
「さっきから、てめぇは何が言いたい?」
瞬間、怪盗が上から飛び降りる。マントをなびかせて大きな声で叫ぶ。
「探偵の職辞めさせようと思ったが残念ながらそれは無理そうだな」
飛び降りる先に駆け出す探偵。同じように大きな声で答える。
「俺は!探偵を辞めるつもりはねぇよ!」
深い暗闇の中、純白の翼が夜空を舞う。
             -fin-
「探偵の職から俺の嫁になるとか、良い考えだと思わねぇ?」
「バーロー、俺が嫁になるわけねぇだろ。俺はひたすらてめぇのストーカーよろしくてめぇを捕まえるために地獄の果てまで追うかんな」
「うわー、何それ愛の告白?」



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あきゅろす。
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