短編
君が世界から逃げた日
『もう、嫌なんです。』
震える声で告げてきた言葉に、美しい純粋な涙に仁王は思わず抱き締めてその涙を舌で舐めとった。
愛し合っているのに柳生はいつか来るかもしれない別れの時にいつも怯えていた。
好きなのに同性だから認めてもらえないという悲しみから柳生は毎日のように泣いていた。
「柳生……泣かんで。俺、柳生に泣かれるん嫌なんじゃ」
「なぁ、柳生、泣かんで。ずっと一緒におるけん」
どんなに抱き締めてもどんなに一緒にいても柳生が笑顔を見せてくれることは少なくなった。
だけど、別れてやることが出来ない。
自分から解放してしまえば柳生はきっともっと壊れてしまう。
自分にすがり付いて泣き続ける柳生に苦笑を浮かべて優しくけれど力強く抱き締める。
「仁王君、におうくん……雅治君っ」
「大丈夫じゃよ。傍におるけん、傍におるよ」
必死に自分の名前を呼ぶ柳生の額に口付けを落とせば嬉しそうに笑った。
柳生の笑顔なんて久方ぶりで嬉しくなった。が、次の瞬間体に走った衝撃に息が詰まる。
目の前の柳生を見れば嬉しそうな、満面の笑顔。
「におうくんは……わたしのもの」
そう言って俺を突き刺したカッターナイフで自らの首を切った柳生に笑みを浮かべた。
嗚呼、君にはこの世界は耐えられないよ。
一緒に、ずっといられる場所に逃げようか。
そう、声にならない声で囁き満足そうに目を閉じた。
君が世界から逃げた日
(世界から逃げたこと)
(後悔はしていないけど)
(何故だか涙が溢れてきた)
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