真夜中のお菓子。
Side N
箱を包んでいた透明のビニールをツーっと剥がし、キラキラ光る箱をテーブルに置いた。
「何飲む?コーヒーは……眠れなくなっちゃうよねぇ?」
「何でもいいだろ。」
呆れたようにフフって笑ったアズマ君が食器棚からマグカップを出した。
「俺、麦茶でいいぞ。」
「じゃ、俺も麦茶にしよ。」
冷蔵庫からプラスチックポットに入った麦茶を出してマグカップに注いだ。
椅子に座ったアズマ君が「いただきます」って箱から金色の細長い袋を取り出した。
器用に一回でその袋を縦に裂くと、裂け目から現れた茶色いお菓子に齧り付いた。
「ん、美味い。」
ザク、ってそのお菓子を齧った音。
「それ、本場の食べ方?」
「あぁ?」
「破れたトコから齧ってたじゃん?なんか手慣れてる風だった。」
「何だよ、本場って。」
ブハハって、笑ったアズマ君がお菓子を頬張って食べた。
俺も袋を開けてお菓子を口に近付けた。
フワリとお酒の香りがした。
「あ、結構匂うね。酔っ払っちゃったりして。」
アハハって冗談まじりに笑って言った。
「おう、酔っ払っちまえ酔っ払っちまえ。」
「やだよ、今度は何言わせる気だよ。」
先日、ほんの少しのアルコールで酔っ払った俺が妙な事を口走ったのはまだ記憶に浅い。
「ねぇ、何で真夜中のお菓子なの?」
「知らねぇのか?」
知らないから聞いてるのに。
「アズマ君は静岡出身だから知ってるかもしんねぇけど、他県の人で詳しい事知ってる人居ないと思うよ?」
2つ目の袋を手に取ったアズマ君が「そうか?」って言いながら、さっきと同じように袋を裂いて間から出てきたお菓子に齧り付いた。
「俺らの子どもの頃のおやつは大体うなぎパイで飲み物は麦茶だったなぁ。」
「え?夜のお菓子でしょ?」
「これは真夜中だけど、普通のうなぎパイは夜のお菓子なんだ。」
普通の?これ一般的なうなぎパイじゃねぇの?
お酒入ってるから違うのか?
「普通のうなぎパイは夜のお菓子で、夜のスパイスが入ってんだ。」
「夜の……スパイス?」
麦茶をごくごくと飲んだアズマ君が俺を見て笑った。
「夜のスパイスってのは、ガーリックの事だ。」
ガーリックって、
「にんにく?」
「そう。にんにくって、夜に効くだろ?」
「え〜……?嘘だぁ。」
俺が知らないと思って変な事言ってんだ。
「嘘じゃねぇって。」
お菓子に噛り付いて袋から出したアズマ君が、うなぎパイの端っこを指で摘んでザクザクと美味しそうに食べた。
「出張に出掛けたお父さんが、」
ん?お父さん?
「お土産に買ってきて、」
アズマ君がテーブルに落ちたカスを指で集めた。
「おかえり、っつって土産を家族が開けて、夜のお茶の菓子うけにって、いうので夜のお菓子って説もある。」
「へぇ。」
そっちのが納得いくな。最初の説はあからさまだもんな。
「でもこれは真夜中の菓子だな。」
箱の蓋を俺に見せて字を読んだアズマ君が俺に見せた。
「真夜中のスパイスって?」
「さぁな。お酒じゃねぇの?」
お酒が入ってるから真夜中なんだ。
「で、出張から帰った旦那をうなぎパイ食べた奥さんが労うって話もあるけど。」
「絶っ対嘘だ!」
食べかけのうなぎパイを口に全部入れて、麦茶を飲んだ。
箱の裏側を読んで、ガーリックが入ってないのを確認した。
「夜のスパイス入ってないじゃん!」
「だからこれは真夜中のお菓子だっつの。だからブランデー入りなんだろ。」
「じゃあ、旦那を奥さんが……とか、無いんじゃねぇの?」
アズマ君がマグカップをテーブルに置いて俺の手から箱を取った。
「真夜中に菓子なんか食ったら、すぐに眠れねぇだろが。だから夫婦で長い夜の時間を過ごすんだよ。」
そんな訳ないだろうけど。
何で、こんなにもっともらしく言えるんだ。
唖然とした俺の頭を引き寄せたアズマ君の顔が、自信満々の色を湛えて俺を見つめた。
誘われるように、近付いて来た唇に、自分のそれを重ねた。
バターの甘い匂い、麦茶の香ばしい味、
……アズマ君の愛しい味。
お酒やスパイスなんか入ってなくても、アズマ君はいつもおいしい。
なんて事を言ったら、アズマ君はきっと変なスイッチ入っちゃうから絶対言わない。
代わりに、俺から舌を絡める。
………結果は同じだけどね。
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8月17日のブログに妄想。
コンサートで静岡へ。
自分土産に買ったうなぎパイに素朴な疑問を持ったヤマナツでした。
ヤ「夜のスパイスがガーリックっての、ホントだった!」
(ネットで調べた、笑)
ア「嘘だと思ってたのかよ………。」
だって、エッチしたいだけだと思うじゃ〜ん(笑)
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