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花泥棒と龍の笛2
感じ慣れた気を追いながら飛影が邪眼で視てみると、蔵馬は穏やかな風の吹く丘の上にいた。

いつもは飛影の背や首に回される両手に持った、見知らぬものに唇を寄せながら。


…笛……?


絹糸のような髪をそよがせながら地面と平行に楽器を構え、柔らかな表情の中にも凛とした美しさを湛えた姿は、さながらお伽噺の中の人物のようで……

飛影は暫し恋人に見惚れた。


急に現れて驚かせぬようわざと気配を消さずに近付くと、飛影に気付いた蔵馬がたちまち微笑む。

「飛影!どうしたんですかこんなところで。待ち合わせは明後日の筈でしょう?」
「取るに足らん野暮用だ。それよりお前…そんな芸当もできたとはな…」

「我流だけどね。昨日骨董市で見付けて、いい音だったからつい…」


そう言って蔵馬は、笛を一吹きしてみせる。


木製の至ってシンプルな造作のそれは、懐かしいような、何かを語るような、不思議な音色で鳴いた。


すると、二人の足元の草や近くの木々がにわかに揺れ、ざわめき始める。

「…これは?」
「植物たちが好む音らしいんですよ。だからこうして…ほら、こんなにざわつく」



「それでこんなものまでお目覚めというわけか」

飛影がポケットからそっと手を引き出すと、甘い香りを引き連れた桃色の花房がふわりと現れた。

「それは…刻不知?ああ、どうりでずっといい香りがすると思った」

「咲くのは珍しいんだろう?こいつからは酒ができると聞いた」

「うん、貴腐酒って言ってオレも飲んだことはないんだけど…。
誰かのご所望?」

「…ちっ。あいつめ、オレを使いっ走り扱いだ」



…躯か。


小さく笑って、蔵馬は短いフレーズを吹いた。


蔵馬が笛に息を送り込むと周囲の植物たちは再びざわめき始め、南の方角からは先程飛影が差し出した花と同じ甘く強い香りが流れて来る。

「刻不知もこの笛が好きみたいですね。ほら、きっとすぐ近くですよ」




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あきゅろす。
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