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花泥棒と龍の笛6


「勝手に帰って来てしまって、躯怒っていたんじゃないですか?」

自分の肩を抱きながら邪眼で何かを視ていた飛影がふっと笑いを漏らしたのに気付き、蔵馬が尋ねる。

「いや、思わぬ休暇ができた」
「え?」
「暫く向こうへは行かずに済みそうだ」
「…よくわからないけど、喜んでいいんですか?」

「ああ…だが、酒は分けてやらんとさ」

苦笑しながら飛影が言うと、愛し気に彼にもたれていた蔵馬がぱっと顔を上げ、悪戯っぽい笑みを作った。

「それはこっちのセリフかも知れませんよ」
「何だと?」

怪訝そうな声色の裏で、蔵馬の珍しい表情に意外な嬉しさを覚えながら飛影が聞き返すと、蔵馬はアーモンド程の大きさの細長い粒を一つ取り出してみせた。

「オレの妖気と笛があればいいなら、人間界でも育つんじゃないかと思って」

もう片方の手には、拳ほどの麻の袋。

「これだけ種があれば咲かせ方も研究できるだろうし…ベランダにでも植えてみますか」


一瞬面食らった飛影はすぐに可笑しそうに笑い、蔵馬を傍らに抱き直した。

「抜け目のない奴だな」


種の袋を置き、その手を飛影の首に絡ませてにっこりとしながら蔵馬が言う。

「だって、飛影だってちょっと飲んでみたかったでしょ?」

しなやかな植物のように巻き付いてきた指を撫で、唇の片側に笑みを造りながら飛影が応じる。

「ああ、流石元大盗賊だ」

――自分だって。

そんな内心をくすくすとしまい込みながら、蔵馬は恋人の冗談に乗せられてみせる。

「もう…もっと違った誉め方できないんですか?」



「流石オレが惚れた奴だ」

蔵馬の腕をひょいと引っ張り上げてその体を自分の膝に乗せると、飛影はあっさりとそう言った。


「飛影…それ、オレじゃなくて自分のこと誉めてるじゃないですか」

「何か文句があるのか?」

そして、口付けをひとつ。

どうやら機嫌がいいらしい。


「ないですよ。このオレが好きになった人に文句だなんて」




蔵馬の唇を盗られたままの龍の笛と、芽吹かせられるのを待つ花の種だけが、彼らの長く幸せな午睡を見ていた。



(fin)

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