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必要3



「俺様、なんだか力抜けちゃった…」

「なんだ、そんなに悩んでたのか?」


布団に突っ伏したままそう言うと、小十郎さんは僅かに笑って問いかけてきた。
力が入らない、と言ったばかりだったが、思わず力んで起き上がって小十郎さんにと視線を向ける。


「そりゃあ悩むでしょ!!自分で女だって言ってなかったんだし、男だと思われてると思って…。俺様、あんなに悩んじゃって、馬鹿みたい…」

「佐助…」

「ホントに、馬鹿、みたい…っ、」


言葉を紡いでいるうちに、次第に小十郎さんがぼやけていく。
否、ぼやけているのは俺の視界だった。
熱い雫が、頬を伝ってぽたりと布団に落ちては落ちを繰り返す。
布団が染みになってしまうから、涙を止めなければいけないと思ったが、涙は止まるどころか奥からどんどんと溢れてくる。


「アレ…止、まんない…」

「佐助」

「…ごめんね、小十郎、さん…。すぐ、とめる…から」


そう言ったはいいが、溢れ続ける涙を止めることは出来なくて。
せめて着物の袖で拭おうとした。
―――刹那。


「わ、っ」


ふいに身体が傾いた事に驚いて、反射的に発した声。
それを受け止めたのは、小十郎さんの厚い胸元だった。
鼻孔を小十郎さんの匂いが通り抜けて、小十郎さんに抱き締められていると遅いながら理解する。


「…悪い」


ふいに頭上から聞こえた声。
抱き締められた状態から何とか頭を動かして、上を見上げる。
身体の傾きに驚いたのか、涙は既に止まっていた。


「小十郎、さん…?」

「お前が悩んでいるなんて、気付かなかったんだ。…悪い」


誰が悪いわけでもないのに、何故謝られなければならないのか。
俺は本心からそう思ったが、小十郎さんは眉間に皺を寄せて悲しげな瞳で見つめるばかりで。
先程まで泣いていた事も忘れて、俺は思わず問いかけていた。


「…なんで小十郎さんが謝るの?」

「…お前だけに辛い思いをさせたからな」

「そんなの、誰のせいでも…」

「それでも、俺は自分が許せない…っ」


少し強めに言った小十郎さんの声は、今まで聞いた事がないくらいに静かな怒りが含まれていた。


「自分、が?」

「ああ。先程、お前に言われてから初めて気付いた。『佐助が女だと言ってくれていない』事に…」

「…」

「俺は、浮かれてたんだ」


そう言って、小十郎さんは静かに目を閉じて、俺を抱き締める力を少し強める。


「お前が倒れたのを目の前で見た時―――正直、心臓が止まるかと思った…」

「小十郎さん…」

「だから、お前をそこまで追い詰めた自分が許せない…!!」


ギリ、と小十郎さんが奥歯を噛み締める音が聞こえた。


「…そんなの、俺様だって同じだよ。俺様だって浮かれてて、ついこの間まで小十郎さんに、『自分が女だ』って言ってない事に、気付かなかったんだから」

「…そうなのか?」

「うん。俺様、今まで誰かに好きだなんて言われた事なくて、かなり浮かれてたんだ」


小十郎さんも浮かれてた事実がとても嬉しくて、俺は笑いながらそう告げた。


「…、佐助」

「え…、んぅ…っ」


優しい声に返事をするよりも早く、声より更に優しい唇が降ってきて、俺の唇に重なった。
少しカサついた互いの唇は、幾度か角度を変えながら合わさっていた事で次第に湿り気を帯びていく。


「ん…は、…ぁ…」


口内に入り込んだ小十郎さんの舌に己の舌を絡め取られ、口付けの合間に声が漏れてしまう。
歯列の裏までなぞられる感覚に息が上がった。


「、ふ…っ」


それからしばらくして重ねていた唇を離すと、名残惜しそうに互いの唇を繋いでいた銀糸が、ぷつりと切れる。
それを酸素が足りない頭で眺めていると、再び俺は小十郎さんの腕に抱き締められた。


「…こじゅ、ろさん?」

「…俺は、…」

「…?」

「もう、俺は、お前を不安にはさせやしない」

「小十郎さ…」

「あんな思いはもう沢山だ。だから、俺は…!」


そこまで言って、小十郎さんは腕の力を強くして俺を抱き締める。
その力が思ったより強くて息が詰まったが、この感覚は嫌いではない。
むしろ、心の底から安心してしまうようで、とても心地よかった。


「ねぇ、小十郎さん。俺様、小十郎さんと一緒に入られれば、不安じゃないよ」

「…佐助」

「だから、これからも不安にしないでね」


そう言って微笑むと、小十郎さんは安心したような息を吐いて、それから少しだけ笑って。


「ああ、任せておけ」


と言って、先程よりも痛いくらい抱き締められた。



――ああ、良かった。俺は必要とされていたんだ。



小十郎さんにそう言われただけで、不安なんて跡形もなく消えてしまった事に内心で『俺様って単純』だと笑ってしまう。
それから、小十郎さんの腕の中で大人しく抱き締められながら。



――この愛しい人に必要じゃないと言われたら、俺はもう生きてはいけないのではないか。



と、今更ながらに感じるのだった。






end.


あとがき

相互記念で爛さまのリクエストでした。
♀佐助を書くのが初めてだったので、後半は女らしさ皆無でした…。
内容もよく分からないことに…!!

駄作になってしまいましたが、宜しければもらって下さい!

2011.05.20 柑奈

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