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必要1(小十♀佐)【相互記念:爛さまへ】
※にょた化佐助に注意


上田の城下にも見事な桜が咲き乱れた、ある春の日。
舞い散る桜に人々が感嘆の息を漏らす中、真田忍隊長である俺、猿飛佐助は深い溜め息を吐いていた。


「はぁー…、参ったなぁ…」


こんなに暖かくて、城下の民ばかりか城内の者も、花見だ桜だと浮かれている。
そんな空気の中、俺様には悩みがあって。
とてもじゃないが、そんな気分になれはしない。


「佐助ー!」


何度目だか分からない溜め息をついて空を仰ぐと、主が己を呼ぶ声が響く。


「あらら、もう奥州に行く時間、かぁ…」


憂いをたっぷり帯びた言葉は、春の風にさらわれて消えた。


+++++++++



真田の旦那の騎馬が駆ける傍らに寄り添って、伊達の旦那との会談の為に奥州に向かって土を蹴る。


「…もう着いちゃった…」


伊達の旦那が居住としている城が見え、気分が沈むのが自分でも分かった。
これをもたらしているのは、伊達の旦那のそばにいて、竜の右目と言われる、片倉小十郎である。
胸が少しだけ苦しく感じて、頭を振っていると。
真田の旦那が騎馬の上からこちらを伺うように顔だけを向けた。


「どうした佐助?…女であるのに、無理をさせたか?」

「…。何でもないよ!ありがとう旦那」

「…そうか。お前は某にとって、姉のような大切な存在だからな。疲れたら遠慮せずに申すのだぞ」


そう言って、太陽みたいな笑顔を向ける旦那に、心底暖かい気持ちになった。

――でも、


「…本当に何でもなかったら、良かったんだけどね…」


そんな言葉は、旦那には到底言えなくて、僅かな息の中でそう呟いた。
悩みというのは、誰もが一度は経験したことがあるであろう色恋事についてだ。
…なんだ、そんな悩みか。
と、一蹴できればどれだけ楽か。

相手は、先にも憂いたばかりの片倉小十郎その人で。
戦場で出会い、『惚れた』と言われ、忍である俺様でも『構わない』と言い、そんな彼に自分も惹かれ、公言は出来ないものの、俗に言う『恋人』となったのは記憶にも新しい。

生まれて初めての経験に、浮かれに浮かれていた俺様は、先日あることに気付いた。

戦忍である俺は、物心ついた頃から男装でいる事が当たり前で、他のヤツになめられないようにと、普段も胸にさらしを巻いて男のように振る舞っている。
味方でも、それを知る人はそう多くない。戦場で男同士として出会い、男として口説かれて。
そして、想いが通じるのに時間がかからずに恋人となった小十郎さんに、己が『女』であることを伝えていなかったのだ。

あまりに時間が経っておらず、身体を重ねることもまだ無かったので、小十郎さんは知るよしもないだろう。


「…俺様ったら、本当にお馬鹿さん…」


少しながら膨らみのある胸に手を当てて、呟いてすぐ。
俺達は伊達の旦那の城の門をくぐり抜けた。


+++++++


旦那と伊達の旦那の会談が始まって、俺様は少し前に座る真田の旦那の背中ばかり見つめていた。


「はぁ…」


小十郎さんも同じように伊達の旦那のすぐ背後に座していて、時折こちらに目線を向ける。
そのたびに、少々強面ながらも整った顔に、心臓が跳ね上がる。
…見た目もだけど、男である俺様に告白するなんて、たいそうな御仁だよ…。


「ほんと、俺様には勿体無いや…」


気付かれないような声で、小さいながらも言葉にしたのがまずかった。
言葉というものは、自覚させるにはもってこいの道具なのだ。


『忍に恋なんて必要ない、馬鹿げてる』


『身分が違いすぎて、釣り合うはずがない』



ドロリ、とした嫌な感情と言葉が、頭の奥底から湧いては消え、湧いては消える。


―――そうだ。
――俺様は忍。
―忍である俺は、こんな感情なんて持っちゃいけない。
必要ない。

女であると伝え忘れた?
そんなことは、そもそも悩む必要もなかった。
道具として使われる忍に、恋、なんて…。


「…うっ」


次第に苦しさを増す胸に手を伸ばし、ぐしゃりと布地を掴む。


「、は…」


いらない。いらない。

忍がこんな感情を持つなんて、おこがましいにも程がある。
小十郎さんには、綺麗に着飾った姫のような娘が似合うに決まってる。
汚れた仕事ばかりしてきた俺みたいな忍は、あの人には似合わない。


「ぐ…」


苦しい、苦しい。
痛い、痛い…。

胸を掴む手の平にも自然と力が入る。

それでも、一度溢れた感情は止まらない。


「う、」


忍なのに。

いらない。

こんな感情は。

恋、なんて。

必要ない。

いらない。

おこがましい。

いらない、いらない。

恋。

いらない。いらない。必要ない。

…小十郎さん。


「あ、ぐぅ…っ」


掴む手の骨が軋んで、胸が痛くて、とても苦しい。
こんなの、拷問のほうがまだ楽に決まってる。

こんなもの、

いらない。




「佐助ぇっ!!」




誰かが俺様の名を叫んだ。
意識すら必要ないと、身体がそれも手放すと同時に聞こえた声。
それは、小十郎さんの声だった気がして。
ふ、と暗転していく意識の中で恨めしく感じた。


――ああ、やっぱり。
―俺は、なんて勝手なんだ。

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