桜の面影1【4600hit:紫羅さまへ】
※死ネタ注意
「佐助っ!!」
春というにはまだ早すぎる弥生の初旬。
何の前触れも無しに響いたのは、バタバタとした足音と聞き慣れた主の声だった。
「旦那ったら、なぁに?お団子ならさっき―…」
紅い姿を見つけて声をかけたが、その紅の隣の茶色に気付いたため、言葉は尻すぼみに小さくなって消えた。
「久しぶりだな、佐助」
「…小十郎、さん」
茶色の人物は奥州の独眼竜の右目で、己の恋仲でもある片倉小十郎。
最近は忙しいからって、もう数月も会えていなかった大好きな人。
突然現れたその存在を見つめて、しばらく呆然としていると。
「佐助、片倉殿を部屋にお通ししてもてなしを頼む。…久方振りに積もる話もあるだろう」
「…悪いな、真田」
「…いえ、礼にはおよびませぬ」
真田の旦那はそう言って、『お館様に用事があるから』と、俺様と小十郎さんを残してさっさといなくなってしまった。
「…珍しいね、いつもなら連絡してから来るのに」
とりあえず自室に通して、お茶を差し出して、そう小十郎さんに尋ねる。
几帳面な彼は連絡という礼儀を大切にする。
だから、今まで一度だって連絡を怠るなんてことはなかったのに。
「…急に会いたくなったから、な」
「え?」
「佐助に会いたかったんだ」
あまりに聞き慣れない台詞が聞こえたもんだから、反射的に聞き返すと、更に聞き慣れない台詞が返ってきた。
頭がついていかず、眼を瞬いていると、小十郎さんの手が茶をすり抜けてこちらに伸びてきて。
肩を掴まれて、そのまま抱え込まれるように抱き締められる。
「…小十郎さん…?」
名前を呼んでも返事は無いまま、ただ抱き締められる。
身体をがっちりと抱え込まれたせいで身動きは取れないし。
惚れた相手にされることに嫌悪感は持てないし。
とりあえずされるがままにしていると、俺様の背中に回された小十郎さんの腕が、明らかに意思を持って蠢き始めた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、小十郎さん!?」
「なんだ」
「な、なんだ、じゃなくてっ」
そうこう会話をしているうちに、小十郎さんの腕は既に俺様の素肌に到達し、もう片方の腕で具足を外し始めている。
「す、するの…?」
何をするか、など言葉で確認するほどもないくらい、もう脱がされてしまっている。
でも、まだ日が高いという事が気になって、小十郎さんに問いかけた。
すると小十郎さんは、腕の動きをピタリと止め、
「…?、小十…」
「佐助、お前が欲しい。…駄目か?」
脳髄に染み渡る低い声で言われれば。
嫌だなんて言えるはずがなかった。
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