自覚した気持ち2 ※小十郎目線 「…参った」 様々な書状に囲まれて政務に勤しむ傍ら、橙色に染まった空を窓から眺めながら呟いた。 伊達軍が主を取り戻すために上杉を攻めた戦から幾月。 大怪我を負っていた主の身体も快方に向かい、現在では歩けるまでに回復していた。 それは、家臣として何にも代え難く喜ばしいことだ。 しかし、 それ以上に気になっていることがあることも確かだった。 「猿飛佐助、か…。………本当に…」 参っている。 上田城に真田の忍を送り届け、奥州に帰ってきてからというもの、茜色の髪の忍のことばかり考える毎日を過ごしている。 敵国の忍を何故助けたのか。 忍は苦手だったはずなのに。 何故、口付けまでしてしまったのか。 何故…。 堂々巡りばかり繰り返したせいか、あの忍の姿が頭から離れない。 本当に、何故…。 …いや、本当は、この気持ちの正体を俺は知っているんだ。 よりによって、自分が苦手としていた忍に…。 いや、それよりも、よりによって敵国の忍に惚れるなんて。 心底、どうかしてる。 頭を振って橙色の夕空を見上げても、夕焼けと同じ髪の色の忍を思い出す自分に嫌気が差した。 「はぁ…」 猿飛佐助という忍のことに頭を支配されたせいなのか、ふと漏れた溜め息に、俺は気付くことはなかった。 「どーしたの?溜め息なんてついちゃって」 「ああ?溜め息なんて別に………って、」 返ってくるはずのない返事に、我に返って顔を向けると、橙色の夕焼けを背景に、それと同じ色の髪をなびかせた忍が窓枠に腰掛けていた。 「…」 「…あれ、俺様のこと忘れちゃったの?ひどーい片倉の旦那ってば、刃を交えた仲だってのに」 突然のことで頭が停止した数秒間。 真田の忍がそう茶化すのを聞いて、動かすのを忘れていた口がようやく動き出してくれた。 「…忘れてなんかねぇよ」 「そ?そりゃまあ嬉しい限りですよ」 またしても茶化すようにヘラヘラと笑う猿飛に、何と返せばいいかと思案していると。 「…あのさ、」 今の今までヘラヘラしていた猿飛が、いきなり困ったような表情に変わっている。 眉は逆ハの字で、唇は少し尖って。 更に上目使いのおまけ付き。 「っ、何だ?」 忍のくせに、なんて顔しやがるんだ。 少々どころかかなり動揺したが、なんとかそれを隠して返答する。 「お礼、ちゃんと言ってなかったな…って」 「お礼?一体何のだ?」 「え、と…前の戦で、わざわざ上田まで送ってもらっちゃった事…」 「いや、別に大したことはしていないが?」 「大分、迷惑かけたと思うんだけれど」 そうは言われても、本当に大した事はしていない。 ただ、雨宿りをして、話をして、上田まで送っただけ。 「自分がしたかったからしただけだ、気にするな」 思った通りの事を告げると、猿飛は目を瞬かせ、更に一拍おいてから、音でも聞こえてきそうな勢いで顔を朱に染め上げた。 「し、し、したかっただけって、」 「?」 「…せ、接吻、も?」 「っ!?」 どもりながら尋ねた猿飛は、せう尋ねた後にこれでもかと言うくらい、更に顔を朱に染め上げた。 [*前へ][次へ#] |