太陽のイロ
部屋一面を染める橙色に、気付かぬ間に夕方になってしまっている事に少々驚く。
慌てて背後を振り向くが、仕事が落ち着くまで、と待たせておいたはずの真田忍隊長である恋人の姿は無かった。
「佐助…?」
「んー?なーに、小十郎さん」
姿は見えないが、声が聞こえたことに、ほっと息を吐いた。
佐助の声が聞こえてきたのは、障子戸の向こう、部屋に面する廊下の方角。
佐助の返答に言葉を返さないままに、握っていた筆を机上に置いて、立ち上がって障子戸に歩を進めた。
スッと、障子戸を開けると、部屋の入り口からさほど距離はない場所に佐助はいた。
廊下の片側が、庭に直に面する作りとなった、いわゆる縁側に座る佐助。
足を垂らし、少し動かす様子から、とても忍には見えない。
…そんなことを口にすると、途端にへそを曲げるだろうから、決して言いはしないが。
「…悪い、随分待たせちまったな」
「いーよ、別に。お仕事大変なんでしょ?」
互いに主君に仕える身であるため、佐助はその辺の事に理解がある。
そう言って、にっこり笑った佐助にほっとする一方、なんだか申し訳ない気持ちにもなる。
「悪いな…」
いたたまれなくなり、再度謝ったが、佐助はけらけら笑いながら、気にしてない。と本当にそんな事は気にしていないといったような口調で告げた。
そして、自分の座る隣を手の平で叩いて、俺に座るように促した。
そのまま佐助に促されるまま、廊下に腰を降ろす。
と、佐助がポツリと呟いた。
「でも…」
「?」
「…ちょっと、寂しいかな」
滅多に聞けないであろう恋人の本音に、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を感じる。
そのため、少しの間言葉が出てこない。
それをどう受け取ったのか。
佐助は自分の台詞を誤魔化すかのように立ち上がり、庭に数歩歩みを進めた。
そうしてそのまま、先程よりも見事に色付いた橙色の空を見上げる。
佐助の橙色の髪は、夕陽の空と丁度同じような色だった。
「っ、」
それを見た途端。
思わず立ち上がり、前に向かって歩を進め、橙色の髪を持つ恋人を、背後から己の腕の中に閉じ込めた。
いきなりの行動に驚いたのか、わっ、と佐助は声を上げて、頭を傾けて、俺に顔を向ける。
「どうしたの、小十郎さんってば」
「…別に、なんとなく、だ」
そう言うと、佐助は少しだけ唇を尖らせて、ふーん、と拗ねたように言う。
「…理由、言えないんだ?」
「う、…何だっていいだろう」
「良くないっ」
少しだけ眉を吊り上げ、更に頬まで膨らませた佐助。
「…子どもみたいだな、お前。そんな顔してると、忍には見えないぞ」
理由を誤魔化すため、先程まで絶対に言わまいとしていた事がつい出てしまい、すぐに後悔したがもう遅かった。
「っ!!…小十郎さんの馬鹿っ!どうせ俺様は忍らしくない顔ですよーっ!!」
そのまま、身体ごと顔を背けた佐助。
だが、本気で起こっているなら、今すぐにでも飛び去るはずなのにそれをしない。
ということは、本気で怒っているわけではない。
「…俺様だって、ちょっとは気にしてるのに」
ボソリと聞こえた佐助の呟きに、先程までとは違って佐助から、しおらしさが滲み出ていた。
「…悪い。そんなつもりは、無かったんだ」
もはや、今日三度目となった謝罪を述べると、佐助はちらりとこちらを見て。
「じゃあ、理由」
上目使いでそう言った佐助に、くらりと目眩がする。
「…それは、」
「それは?何?」
「軍事機密、だ」
やはり、言えない。
理由は軍事機密だと、言ってから佐助を見ると、
なおも照らす夕刻の光で、佐助の髪が一層、夕陽色に輝いた。
言えるわけない。
佐助の夕陽色の髪が、空と混ざって消えそうに見えた、なんて。
そんなこと、絶対言えるか。
end
夕陽に佐助が溶けて消えそうだとか考える、なかなか乙女な小十郎さん目線でした。
久々に短くまとめて書けました。
ダラダラと長くならなかったので、個人的には結構好きです。
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