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もう一つの約束
【アニメ戦国BASARA弐 其の七】
 ┗ OVA「武田漢祭り」ネタバレ注意
※見ていない方は閲覧ご注意下さい。

※小十佐→恋仲設定







真田の旦那と伊達の旦那が次の試練の間に進んでいった。
先程まで闘いが続けられていた広間には、小十郎さんだけが佇んでおり、その視線は二人が消えた方向ばかりを見つめていた。


「どーしたのさ、竜の右目」

「………」


煙に紛れて姿を消してから、旦那達がいなくなるのを確認して。
尚も二人が消えた方向ばかりを見つめている小十郎さんの傍らに降り立って、そう告げる。
しばらくして、小十郎さんは無言のままこちらに目を向けて、やや不機嫌そうな表情を携えながら口を開いて。


「…もう、誰もいないだろ。名前で呼べ」


と、不機嫌そうにそう言うものだから。


「ああ…、ごめんね竜の右目」


わざと、先程の呼び方のまま笑みを浮かべて謝罪した。
すると、小十郎さんは表情を変えることもなく、再び元の方向に視線を向けた。
その反応に、面白くないと内心舌打ちをしながらも己も旦那達が消えた方向に目をやった。

その視線の先からは何やら爆発のような、大きな音が響いて聞こえてきて。
道場全体がビリビリと揺れる様子を肌で感じる。



―――火男仮面、もとい大将は派手にやっているらしい。



「小十郎さん、不安なの?」

「…政宗様に不安を感じるはずがないだろう。あの御方が負けるなど、決して無い」

「…あっそ」

「お前は、」

「ん?」


ふと小十郎さんに目をやると、その目は先程と変わらずに、同じ方向ばかり見つめている。
それが何故だか、少しだけ苛立った。


「お前は、不安じゃないのか?」

「…、不安だよ」


伏目がちにそう言って、目の動きだけで小十郎さんを見やると、驚いたようにこちらを見つめていた。
先程とは違い、小十郎さんが反応してくれた事に優越感を感じながら、思った事を正直に口からこぼす。


「あの人は、真田の旦那は…まだまだ身体ばかりか心も未熟でね」

「…年も政宗様より若いからな」

「うん。それゆえに、不安に感じる事が多々あるんだよね」


再び、地響きのような揺れが身体を貫いた。
かすかに剣戟の音も聞こえてくる。


「真田の旦那は…戦国の世で生きていける人なんだろうかってね」

「………」

「あの人は、真っ直ぐすぎる。戦国の世で生きるには眩しいくらい正直で、純粋で」


小十郎さんが静かに聞いていてくれるからだろう。
俺様は口から零れ続ける言葉を、止めることなど出来なくて。
小十郎さんの深茶の瞳に見つめられるまま、話し続ける。


「あんただって、見ただろう?真田の旦那は、天狗仮面の正体どころか天狐仮面の正体だって、気付きやしなかった…っ!!」

「………」

「…そんな、そんな人が渡っていけるほど、この世界は甘くは出来てない」


主の陰口を言っているような言葉ばかりが口をついては出る。
だが、一度堰を切った言葉は止まる事すら知らぬようで。


「だから…、不安で不安で仕方がない…っ」


思わず顔を伏せて漏らした俺様の声は、自分でも驚くくらい弱々しく震えていた。


「『不安』、か」


耳に届いた小十郎さんの声に顔を上げると、真田の旦那と似たような真っ直ぐな光を瞳に宿した小十郎さんの目に射抜かれた。


「…家臣として出来ることは、弱い主を案じることか?」

「っ、」

「毎日毎日、主が未熟だからと不安にさいなまれて嘆くことか?」

「…ち、が」

「違う!!」


否定しようとした俺の声を上回るような大声で、自分が言おうとした言葉が広間に響き渡った。


「俺は、政宗様の右目となって、政宗様の背中を今生守り通すと誓いをたてた」


す、と静かな音をたてながら小十郎さんは己の腰の刀を抜いて。
俺様の目の前に、その刀身に刻まれた文字を見せつける。


『梵天成天翔独眼竜』


そう刻まれた刀は静かな光を放ちながら、鞘にと納められた。
その流れるような所作に見入ったままでいると、小十郎さんは再び口を開く。


「…佐助、お前の誓いは何だ?」

「…おれ、は…」


そうだ。
俺様は、
真田の旦那の未来を案じてばかりの、そんな情けない誓いなどたてていない。


「俺様は、真田の旦那を…。
甲斐を背負って立てるような大将に。
…いや、天下を取れるような男にまで押し上げて。
そんな旦那を影から支えて守る。と、そう誓ったんだ」


と、いつかの日に誓ったことを、小十郎さんではなく自分に向かってそう告げた。


「…ふ、そうか」


小十郎さんは安堵にも似た表情を浮かべ、俺の目をしっかりと見つめていた。


「真田は、俺も認めた男だからな」

「…そーでした」


真田の旦那を認めてくれた男の目の前で、認めた相手をけなすなんて。


「俺様も、まだまだだねぇ」





+++++





武田道場から少し離れた丘陵で、風になびく青草の上に小十郎さんと腰を下ろしていた。
すると、道場の入り口付近で、真田の旦那と伊達の旦那が言葉を交わして、手同志を固く結ぶ様子が目に入った。
何を話したかなんて遠くて聞こえはしなかったが、二人の表情から晴れ晴れしたような気持ちが伝わってくるかのようだ。


「熱いねぇ…握手なんてしちゃって」

「なんだ、羨ましいのか」

「そ、そんなわけないでしょーがっ!!」


慌てて言い返すと、小十郎さんは僅かに笑いながら、さて。と腰を上げた。
その様子を見ていると、ふいに眼前に差し伸ばされたのは小十郎さんの掌で…。


「何、握手?」

「…駄目か?」

「ダメに決まって…っ!?」


握手なんて恥ずかしいと断ろうとした刹那。
眼前に伸ばされた小十郎さんの手が、俺の腕をいきなり掴んで。
かと思ったらその勢いのままに引っ張り上げられて、強引に立ち上がらされた。


「…んっ」


かと思えば、次の瞬間には小十郎さんに唇を奪われて、口からくぐもった声が漏れる。
驚いて抵抗すらできぬまま、口付けを受け入れて、しばらくして解放される。


「…は…っ、何すんのさ…」

「別に、恋人同士が握手っつー笑える冗談はしたくねぇってのと…」

「と?」

「さっき、『名前で呼べ』って言ったの無視したお仕置きだ」

「…なっ!?」


言い返そうと俺様が口を開くよりも早く、小十郎さんに腕の中に閉じ込められて、力を込めて抱き締められた。
そのまま小十郎さんは、俺の耳元に口を近づけて静かに呟く。


「…佐助、絶対に死ぬんじゃねぇぞ」

「…っ。小十郎さんこそ、俺様の見てない所で死んだりしたら、絶対に許さないからね」

「…ふ、上等だ。俺とお前の約束だ、絶対に違えるなよ」

「うん、約束だからね」



辺りが夕闇に染まっていく風の中。
小声で二人だけの約束を交わしてから、俺達は主達の元へと足を進めるのだった。



end.


+++

オマケ↓


主達の元へと歩を進めながら、俺様はふと道場でのことを思い出し、隣を歩く人に視線を合わせて口を開いた。

「そういえば小十郎さん」

「あ?なんだ」

「さっき道場でさ…凄い跳躍してたよね?」

「ああ?……」

眉根を寄せて怪訝な顔の竜の右目は、記憶を辿っているようだったが、思い出したようで素直に頷いた。

「アレ、俺様大感動〜!!」

「は?」

茶化されているように感じているのか、小十郎さんは眉間に皺を寄せている。
だが、茶化しているつもりなど俺様は微塵もないのだ。

「あんな跳躍できる人なんて、中々いないよ?真田忍隊の中でも数えるくらいしかいないし」

「…そうなのか?」

「そうだよっ!!小十郎さん、忍の方が向いてるんじゃないの?もう忍になったら良いんじゃない?」

「っ、馬鹿言うな!!誰がなるか!!」

小十郎さんは慌てふためいて、首を大袈裟に横に振って否定している。
まあ、そんな事は予想していたが、俺様は出来る限り沈んだ表情と声を出してこう告げた。

「…なんだ、小十郎さんが忍になってくれたら、夫婦みたいに、毎日一緒にいられると思ったのに…」

俯いて言った言葉は効果絶大だったようで。
小十郎さんが隣で真っ赤になっている様子が見ずとも伝わってきた。

…さっきの口付けの仕返しにしては、少しやりすぎたかな?

オマケend.

+++++


後書き↓

BASARA弐 其の七のDVDを買って、見てみました!
で、その勢いのまま書き上げてしまいました…(^_^;)

それにしても、パッケージから小十佐って…っ!!
天狗×天狐は素晴らしすぎますっ

サイコーだったので、小十佐の間(←勝手に命名)から政宗と幸村がいなくなってからの小十佐で妄想してしまいましたっ!!

とりあえず、管理人の妄想で完成した代物なので、
セリフとか内容とか、小十郎の刀の文字とか佐助の誓いとか…
適当な部分あるかもしれませんが、見逃していただければ幸いです(^_^;)

それと、小十郎の素晴らしすぎるジャンプに感動したのは私だけではないはず…!!
と思ってオマケで書いてしまいました。
侍のジャンプ力じゃないよあれ…!!
もう佐助と忍んじゃえばいいのに!!結婚しちゃえばい(略)


それでは、長々と読んでいただきましてありがとうございましたっ!!

2011.05.01 柑奈

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