狐3※微裏注意
「っ、わ!!」
バシャバシャと飛沫が飛び散る中、佐助の腕を掴んで佐助を一気にこちらに引き寄せて、そのまま己の腕の中に抱き込んだ。
「こ、小十郎、さん?」
「…悪い」
「え?」
佐助は俺の腕から逃れようともがきながら、俺が発した台詞に目を丸くしてこちらを覗き込むようにして顔を近付けてきた。
狐の耳をつけたままの佐助は、いつもとは違う雰囲気を纏っているかのようで。
くらりと脳内が揺らめいたのを感じる。
「…っ、」
「…小十郎さん?」
湯に入っていたためか佐助の顔は上気し、目は潤んでいて。
まるで情事の時のソレを連想してしまい、俺は無意識のうちに喉を鳴らしていた。
「ど、どうしたの?小十郎さん…」
何も答えずに佐助の顔ばかり見つめていたからだろうか。
佐助は頭上の狐耳を僅かに動かし、訝しげな顔でそう問いかけてくる。
おまけに、何も答えない俺を見て首をコテンと傾けた。
―――それを見て頭の奥の方で、確かに何かが切れたような音がした。
先ほどよりも大きな水しぶきと音が上がる。
佐助の肩を掴んで湯船の壁に佐助の身体を押しやって、その勢いのままに乱暴に口付けた。
「ん、ぅっ」
湯殿内に佐助のくぐもった声が響く。
佐助の口内を舌で探りながら、左手で佐助の背中を滑るように撫でていると、毛に覆われた狐の尻尾が手に触れた。
柔らかい佐助の尻尾は僅かな水音と共に、俺の手から逃げるようにクネリと揺らめいて離れようとする。
それに誘われるかのように、なんとなしに尻尾を手で軽く握り込んだ―――。
「っひあぁ!!っぁ…、」
刹那。
佐助は目を見開いて普段よりも一際高い声を上げて、力無くこちらにもたれかかってきた。
「…。なんだ、感覚あんのか?」
「だから、さっきも、言ったでしょ…?自分の身体、変化させてる、って」
途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、そう言う佐助。
それを聞いて、ああ、確かにそう言っていたなと頭の奥で思い出しながら、再び尻尾を握りこむ。
「ひぃっ!!、ちょ、ちょっと止め…あぁぁっ!!」
尻尾を握る度に佐助の口からは嬌声のような高い声がその都度漏れる。
それから更に何度か佐助が声をあげたところで、佐助は俺の肩を弱々しく掴んで息を整える。
「…?」
その様子を見て、佐助の尻尾から手を話して佐助の息が整うのを待っていると。
「ふ、ぁ…、こじゅろ、さん」
しばらくして吐息を漏らしながら俺の名を呼んで、顔を上げた佐助。
眉は八の字に下がり、瞳は涙をいっぱい溜めていて、頭の耳は力無く垂れ下がり、頬だけでなく耳まで真っ赤で――。
「っ、」
今度ははっきりと、自分の欲望が存在を主張するのを感じてしまった。
だが、俺がそれを行動に移すより早く、佐助が自分の唇を俺のソレに押し付ける。
しばらくされるがままにしていると、佐助はゆっくりと唇を離してから俺の首に腕を回して抱き付いてくる。
「佐助?」
「…小十郎、さん」
「ん?」
「…っ、小十郎さんのせい、だからねっ」
何が、と佐助に聞こうとしたが自分の腹に佐助の固くなった欲の塊が当たり、それだけで全てを理解できた。
首に抱き付いたままの佐助に目をやると、後頭部と髪の隙間から覗いた頬の一部しか見えず、表情は分からない。
「っ、さ、すけ…」
佐助の頬の赤さを目にしたからだろうか。
自身の頬にも熱が集中してきたように感じるのは、決して気のせいではない。
そう確信めいたものを感じるくらい、自分自身切羽詰まっているのがありありと分かった。
「…小十郎さん、顔真っ赤だよ」
ようやく首から離れた佐助は赤い顔をしながら、俺の顔が赤いと指摘して、尻尾でパシャリと水面を叩いて微笑んだ。
「…お前のせいだろ」
「ふ、何ソレ。じゃあお互い様ってことで」
佐助はやんわりと笑顔を見せながら俺の首に回した腕に力を込めて、顔を近付ける。
それに誘われるかのように、俺も佐助の腰に手を回して、唇同士を合わせようと佐助に顔を近付けた。
「…は」
頬に佐助の甘ったるい吐息が触れる。
――その甘過ぎるひとときは、互いの気持ちが快感に高ぶっていたからだろうか。
俺と佐助は、全く気づけなかったのだ。
ガラリと勢いよく響いた音、それは湯殿と脱衣所とを隔てる戸の開いた音。
次に聞こえたのは聞き覚えのある声。
「政宗どの!某はこんなに大きな風呂に入るのは、初めて、で…」
「Partyの後の風呂は、bigなのに限る、から、な…」
次第に尻すぼみに小さくなった二人の声は、間違えるはずもない主のものと、庭で主と手合わせをしていた真田のもので。
俺と佐助は同時に、油が切れたようなぎこちなさで首を僅かに主達に向ける。
「ま、政宗様…」
「旦那…」
政宗様と真田は裸で、腰に手拭いを巻いたままの姿で立ち尽くしている。
すると、言葉を発するのを止めた二人は口を開けたまま、視線は俺と佐助に…
正確には、もう一寸ばかりで触れそうな俺達の唇と、佐助の頭から生えた耳と、水面に揺れる佐助の尻尾―――と順番に視線を移し、最後に俺達の全体を見て。
政宗様は口角を釣り上げて弧を描き。
真田は顔を真っ赤に染め上げて身体を小刻みに震えさせている。
「悪ぃな、随分なお楽しみのPartyを邪魔しちまったみてぇだな?」
と、政宗様はしたり顔でニヤリと笑いながらそのまま耳を両手で塞いだ。
「破廉恥でござらあぁああああぁあああ!!!!!!!」
瞬間、耳をつんざくような大声を張り上げた真田。
自分の鼓膜だけでなく、まるで城全体が揺れているであろう大声に、頭を金鎚で殴られたような感覚に目眩がする。
真田は…破廉恥と叫んだ後は顔を手で隠して、そのままどこかに走り去ってしまったようだ。
…手拭いを腰に巻いた姿で外に飛び出して行って、どちらが破廉恥なのか。
それから政宗様を見れば、やはり平気そうに耳から手を離し、ニヤニヤと悪役のような笑みを浮かべ続けている。
その笑みは何かを企んで…
いや、間違いなくこの小十郎をこのネタで脅して…とか考えているに決まっている。
これからの事を考えて溜め息を吐いて、そういえば佐助はどうしているのかと佐助に目をやると…。
「…いねぇ」
先ほどまで湯に浸かっていたはずの佐助は忽然と姿を消していた。
これは…しばらく出てこないな。
いや、佐助のことだからそのまま帰ってしまった挙げ句、月単位で顔を見せることはないだろう。
「はぁ…」
真田の大声で城中の人間がここに来るだろうこと。
政宗様のこれからの言動のこと。
真田からしばらくは破廉恥扱いされること。
佐助にしばらく会えないだろうこと。
それらを全部考えてしまった俺の口からは、先程吐き出した溜め息よりも更に深い溜め息がこぼれ落ちたのだった。
end.
2011.04.28 柑奈
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