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狐1

※Clap.アンケート1位『裸で狐のコスプレ』
++++++
※小十郎目線




「Ah?…天狐仮面?」

「でござる!」


城の庭で、自分の主の政宗が訝しく首を傾けながら声に出して、真田幸村は眼を輝かして頷いた。

それとほぼ同時、隣に座っていた佐助が盛大にむせる。


「だ、大丈夫か佐助?」

「ぅえ、っほ…だ、だいじょーぶ…」


同盟国の武将、真田幸村とその従者の忍びであり、己の恋人でもある猿飛佐助。
雪も溶けて暖かくなった奥州を、2人が訪れたのは昨日のことだった。
到着したばかりの2人をもてなして、一夜明け。
朝食を取り終えてすぐ、政宗様は真田と手合わせを始め、俺と佐助はその様子を縁側から眺め、他愛ない話と茶を楽しんでいた。
それから半刻あまりの時が過ぎ、主とその好敵手は先ほどの会話にたどり着いたようだ。


「Hey.幸村、何だその『天狐仮面』ってのは?」

「佐助の友人でござる!以前、一度だけ手合わせをしたのだが、なかなかの御仁なのだ!!」

「Hum…強いのか?」

「ああ!某には及ばないまでも、素晴らしい身のこなし。政宗どのにも簡単にはやられはせぬ!!」

「Oh、そいつは一度戦ってみてぇな…」

「そうでござろう!」


真田は両手を腰に当て、胸を張って嬉しそうに笑った。
佐助の友人で、それほどに腕がたつのであれば、俺も一度は戦ってみたいと思いを巡らせていると。

真田は更に嬉しそうな笑顔を見せて、政宗様に声をかけた。


「大丈夫だ政宗どの!天狐仮面どのは俺が呼べば、いつでもどこでも現れて下さるのだ!」


すると、再び佐助が盛大にむせ始める。
まるで犬のような顔でコロコロと笑う真田は、息を吸って空に向かって思い切り叫びをあげた。


「天狐仮面どのぉおおお!!」


そのあまりの大声に、鼓膜が正常に作用し始めるのに少し時間がかかった。
それは政宗様も同じだったようで、叫びから少しして、真田に詰め寄っている。
佐助は大丈夫かと、ちらりと横を見れば、佐助は青い顔をして何やら呟いていた。


「おい、佐す」

「Hey.幸村!天狐仮面とやらは本当に来るんだろうな!」

「…来るに決まっておる!確かに今日は少し遅いが、今に来る!天狐どのおぉぁ!!」


佐助にかけようとした言葉は主達の声にかき消され、視線を主達に向けて、再び佐助に目を向けると。


「…、佐助…?」


佐助に向けたはずの目は、誰もいなくなってしまった空間を映すだけだった。
佐助は一体どこに行ってしまったのかと、辺りに視線をさまよわせていると。


「おお!天狐どの!」

「へぇ、あんたが天狐仮面か…」


2人の声に応えるように、『天狐仮面』と呼ばれた男は木から庭に降り立った。



+++++++



それから更に半刻後。
真田と政宗様と手合わせをした天狐仮面は、当然ボロボロにやられ、満足した真田と政宗様に見送られて姿を消した。
そして、2人は物足りないと言い出して、再び2人で手合わせをし始める。

その刹那、ふらつく足取りで溜め息を吐きながら、佐助が姿を現した。
倒れ込むように縁側に座りこみ、ちらりとこちらを見上げて口を開く。


「あー、その…小十郎さん、いきなりいなくなってごめんね…」

「それはいいが…ボロボロだな」


佐助の服だけでなく、顔にも土が付いていて、服は所々が擦り切れていて。
ボロボロだという表現しか当てはまらないような見た目だった。


「え、っと、あの、いきなり任務が入って、その…」

「………。あの天狐仮面、お前だろう?」

「!な、何…を…、」


しどろもどろな返答を返す佐助にそう言えば、驚きに目を見開いて、次第に諦めたかのような表情に変わっていく。


「…あーあ、やっぱり小十郎さんには、お見通しかぁ…」

「当たり前だ」


髪型や服装だけでなく、声までもが佐助そのままだったのだ。
違うのは狐を模した仮面を付けていたということだけ。


「…どう見ても佐助にしか見えない」

「だよねぇ…。でもさ…、伊達の旦那は気付いてなかったよ?」

「…それに関しては、返す言葉すら無い。はぁ、我が主ながら情けない…」

「あはは、それはこっちも同じだよ」


主への不満など、本人の近くで言うなど失敗だと焦ったが、幸い手合わせに夢中で気付いてはいないらしい。


「それよりさ、小十郎さんお風呂貸してくれない?」


佐助は服に付いた泥を払いながら、申し訳無さそうな顔で俺に問いかけた。


「ああ、湯は沸いてるはずだからな。好きに入ってこい」

「ありがと。こんなに汚れるなんて、予定外だったからなぁ…」


佐助はブツブツと不満を漏らしながら、風呂に向かって歩いていった。


「………」


主達を横目で見ると、盛り上がってきたばかりのようで、手合わせはしばらく終わらないだろう。
俺はそれだけ確信すると、佐助の後を追うようにその場を離れるのだった。


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あきゅろす。
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