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止められない心1※自覚した気持ち続編


「何してんだろ、俺様ってば」

辺りは夜の闇で真っ暗で静まり返っている中、とある木の枝にしゃがんで、もう何度目かも分からない台詞を漏らす。
俯いていた顔を上げれば、夕刻に出たばかりの伊達軍の居城が暗闇にうっすらと浮かんでいた。

「上田に帰らなきゃいけないのになぁ…」

そう。確かに自分はそのつもりで片倉さんの部屋を飛び出したのに。
城も民家も見えない場所まで走ったのに。
すぐに伊達軍の居城近くまで戻ってきちゃうなんて…。

「何してんだろホント…」

あからさまに溜め息を漏らしてみても、反応してくれる人もいないし。
真田の旦那だったら、「一体どうしたのだ、佐助えぇえぇぇ!!」とかなんとか騒ぐに決まってる。それに片倉さんなら、「どうした溜め息なんてついて、何か悩みでもあんのか?」とか言ったりして…。

………。

何でそこで片倉さんが出てくんのさ。

…ま、それは惚れた相手には心配の一つでもしてほしいってもんだし。

…じゃなくて!!

「あーもー、馬鹿じゃないの俺様」

そんなこと願ったって、戦忍の俺には到底叶うはずのない事だって分かりきってるのに。
分かるのに。

「なんなの、馬鹿じゃないの?俺様の足ってば、動いてよ」

上田に帰ろうと頭の中でいくら考えても、足だけ脳から切り離されてしまったみたいに動かない。動いてはくれなかった。
ここまで戻ってくる時には、馬鹿みたいに軽かったのに。

「…どーしよ」

途方にくれてたって、どうしようも無い。自分でなんとかしなきゃ。
と、考えてから一体何刻たったことやら。
このままでは夜が明けてしまう。
それどころか俺様、上田に帰れないかも…。
本当に困ったなぁ…。

「はぁ…、ごめんなさい真田の旦那…。真田忍隊長、猿飛佐助は奥州の山の中で戦忍らしくない理由で先に逝きます…先立つ不幸をお許し下さい………。って、そんなわけいかないでしょーがっ!!」

















「…お邪魔しますよー、っと」

ポソリと、ほとんど口の中だけで言った言葉。その次に、音を立てないように細心の注意を払いながら、天井の板を外して、音も無く床に降り立った。

足元には敷かれた布団が一組あり、その部屋の主である片倉小十郎が静かな寝息を立てて綺麗に収まっている。

夕刻に訪れた時とは違い、白っぽい寝着に、少々乱れた髪が本当にその人物が寝ている事を表していた。

「…片倉さん」

また口の中だけで呟いて、布団の傍らに腰を下ろす。
近くで見る片倉さんの寝顔は、思ったより格好良くて、心臓が脈を打つ。
それが何だか心地よくて、寝ている想い人の名を再度口に出す。
今度は、口の中だけでなく、小さいながらも口に出したかった。

「片倉さん」

「なんだ?」

「っ、ぅひゃあっ!!」

寝顔はそのままに、口だけが動いて返事を返すものだから、ついつい驚いて間抜けな声を出してしまった。
と、すぐに片倉さんの目が開いたかと思うと、むくりと布団から上体を起き上がらせてこちらに視線を向けられる。

「お、起こしちゃった?」

「いや、起きてた。どうも人の気配ってのには敏感らしくて、な」

「…ごめんなさい」

「いや、いい。今日は寝付けなかったんだ」

それでも、自分のせいで起きてしまったのではないかと思うと、申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。

「でも、」

「気にするな、それより、どうしたんだ?こんな夜更けに来るなんて、何か用でもあったんだろう」

「そ、それは…その」

言えない。
片倉さんのいる方向にしか足が進まないから、ここに来てしまったなんて。
片倉さんの事を考えたら、部屋に降りずにいられなくなったなんて…。
そんなの絶対に言えない…!!

「…言えないのか?」

「う、えと、その…」

「…そうか。まぁ、何も無い部屋だが、気の済むまで居ればいい」

片倉さんはそう言って布団から立ち上がって、呆然としている俺の横を通り過ぎて、窓を開けて窓枠に腰掛けた。

「っ、な、何も聞かないの?」

どうにか絞り出した言葉に、片倉さんは「聞いて欲しいのか?」と一言。
言葉に詰まって何も言えなくなった俺を見て、僅かに笑ってみせた。

「っ!!」

わ、わわ。
一段と大きく脈を打つ心臓。
片倉さんって、こんな顔で笑うんだ…。

片倉さんの表情に見とれていたが、表情だけではなく、乱れ気味の前髪や綺麗な首筋に胸が締め付けられてくる。

なんだか腰の下部、奥の辺りがムズムズする。

なんだろ。
なんか変だ。

そのまま、誘われるかのように片倉さんに近づいて、己の唇を片倉さんのソレにそっと押し当てた。



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