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熱に浮かされて1



自分は淡白だと思っていたのに、案外そうではないらしい。
ついに今日だと思うと、緩んで元に戻らない口がその証拠。

あれは遡ること三日前。

奥州の伊達の旦那から「三日後に訪れる」との書状が届けられた。
伊達の旦那が何故上田を訪れるのかは知らない。
伊達の旦那が来ることに興奮しすぎた真田の旦那が、伊達の旦那が来る理由を聞き漏らしたからだ。

でも、そんな理由なんて俺様にはどうでもよくて。

だって、伊達の旦那が来るってことは、小十郎さんがオマケで付いて来るってことだし。



最後に会ったのが、もう三月も前だったからか、俺様らしくもなく楽しみで楽しみで。
この三日間は全くと言って良いほど仕事に身が入らなかった。
知らず知らずの内に、再び口角を緩ませていると、

「佐助えぇぇぇ!!どこだぁあぁあ!!!!」

と、

城内どころか、近隣に迷惑になっていそうな声が響きわたり、地響きにも似た足音が聞こえた。

「…旦那があんなに騒ぐってことは…。来たかな?」

自分を呼ぶ主の声を無視し、窓枠に手をかけて、城の屋根に飛び上がる。
着地するやいなや、馬舎の辺りに視線を向ける。
すると、馬舎に奥州の馬が2頭…。
って、あれ。1頭しかいない。

しかも、その1頭の馬は周りから見れば、ただの迷惑であろう派手な飾りが着けられている。
あれは、有無を言わさず伊達の旦那の乗ってきた馬に違いない。
しかし、いないのだ。
その派手な馬の隣にいるであろう、あの人の馬がいない。

「…あれぇ?」

他に連れ立ってきた部下と一緒に来るのかな?

いつも伊達の旦那が飛ばしすぎるため、お供の部下はついていけず、少し遅れて到着する。
それならば、今いないということも納得がいく。
でも、今まで一度だってそんなことは無かったし。伊達の旦那だけを先に行かせるなんて、よっぽどな理由がない限り、あの人はそんなことは絶対にしないだろう。

そうこう考えているうちに、数騎の馬が駆ける音が近づき、間もなく遅れていた伊達軍の兵士達が到着した。

「…やっぱり、ね」

案の定、その中に小十郎さんの姿は無い。
溜め息をついて、首をかしげるだけかしげて。
とりあえず、伊達の旦那を問い詰めてみようと思い立って、主達がいるであろう客間に足を向けるのだった。








「あ、伊達の旦那っ」

「ah?…猿飛じゃねーか」

客間へ辿り着く前に、伊達の旦那と真田の旦那を発見して、声をかける。

「さ、佐助っ!!あれほど呼んだというのに、今頃になって何

「あのさ、伊達の旦那…。小十郎さん、来てないの?」

旦那に先程自分が呼ばれても出て行かなかった事を咎められそうになったが、今はそれどころではない。
旦那には悪いが台詞を言い終わるのを待たず、伊達の旦那にそう尋ねた。

「Ha?…小十郎なら、酷い風邪ひいちまってな。奥州で留守番だ」

「え、か、風邪?」

伊達の旦那が溜め息混じりにそう言うのを聞いて、少々気が抜けてしまった。
伊達の旦那を部下に任せて来させるくらいだから、きっと何か重大なことでもあったんだろうと思っていたのに。

「Yes.こないだの大雨の中、畑の野菜の補強をしたらしくってな。downしちまって今頃は城で寝こんでるぜ」

寝込んで、る?
あの小十郎さんが、風邪で。
そんなこと聞いてしまったら、もう居ても立ってもいられない。

「佐助えぇぇ…某を無視などとなんたる無礼

「ごめん、旦那…。俺様しばらく出掛けるから、後よろしくっ!!」

再び、旦那が言い切る前にそう叫び、自身も言い切る前に走り出す。

背後から、旦那が叫ぶ声が聞こえた気がしたが、もう気にしてはいられなかった。






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