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自覚した気持ち3

※佐助目線


目的の人物に会って、お礼を言うだけ。
そんな簡単な用事ついでに旅行でもしようと考えて、はるばる信州から奥州を訪れたのに。

半刻もしない内に来るんじゃなかったと自責の念に駆られることになろうとは。

少し前の俺様は思ってもみなかった。

「………」

「………」

ほんの僅かの時間だったはずなのに、己の口にした言葉を後悔するには十分すぎる時間。

「…猿飛」

「あ…」

名を呼ばれて、返事をしようにも、喉がカラカラに渇いて、張り付いてしまったみたいに声が出ない。
なんとか絞りだした声も掠れていて、本当に喉が渇いていたことにようやく気づいた。

「うぅ…」

顔から火が出てるかのように錯覚してしまうほど、火照っていることが自分でも嫌と言うほど分かって、自分に対して心の底から嫌気が差した。

「ご、ごめ、片倉さん…、俺様、もう帰るね。本当に、ありがと…」

「っ猿飛、あれは、」

片倉さんの口から言葉が紡がれないうちに、片倉さんから背を向けて、言うべきことを言って立ち去らなければ。
考える間もなく頭に浮かんだことを行いながら、窓枠に手を掛ける。

寸前、右腕を掴まれた。

「っ!ぅあっ」

あの戦の時に骨折した右腕に鈍い痛みが走り、思わず声が漏れる。
奥州を訪れるまでに怪我が回復したとは言え、まだ完全に回復したわけではないのだ。
今の俺は身体中に爆弾を抱えているようなもの。

「わ、悪い!…まだ痛むのか?」

「うん、まだ、少ーしね…」

「少しじゃないだろう、そんなに脂汗かいてるくせに」

「はは、バレた?さっすが片倉さん、分かってるんなら、手、離してよ」

片倉さんは俺の右腕から手を離しはしなかった。
俺が痛がったためか、腕を掴む力を大分弱めてくれていたが。

「…離したら逃げるだろう」

「………帰るんだってば」

「それでもいい。居なくなることに変わりはない」

「…」

「俺の答えも聞かないうちに、勝手に居なくなるな」

どうせ、拒絶だろ?

頭の中で勝手に言葉が響き渡る。
かなりの激痛が伴うだろうが、振りほどいて逃げてしまおう。

そう考えて実行するよりも早く、背後に感じた温もりに息が詰まる。
自分の胸あたりにある、茶色の袖に包まれる片倉さんの腕。

「…そうだ。あの口付けも、したかったから、したんだ」

自分が片倉さんに抱きしめられているという結論に達してすぐ。
耳に届いた片倉さんの言葉に、反射的に目を見開いて首だけで後ろへ振り向いた。

「猿飛」

俺の名だけを呼んだ片倉さん。
少しの間、二人で何も言わずに見つめあっていると、廊下から足音が聞こえてきた。

「ち、」

舌打ちが一つ聞こえて、片倉さんがゆっくりと腕を離して俺から離れる。

「引き留めて悪かった。もう、行っていい」

「…うん」

コクリと頷いて、窓枠から藍色に染まりかけた空に飛び出した。
そのまま、城内の木に飛び移り、上田へ帰るためにと足を蹴り上げる。
城内を出て、城下町を抜け、人里離れた場所に来るまで、全速力で無我夢中で駆け続ける。
身体がいくら悲鳴を上げようが関係ない。
が、喉がピリピリと痛みだして耐えられなくなったあたりで足を止めた。

「っはぁ、はあっ、はあっ…」

すっかり藍色となった空を仰ぎ、頭を振って目を閉じる。

−−−気付いてしまった。

脳裏をよぎる片倉さんの事。
表情や匂い、温もり。
酸素が足りない頭でも、鮮明に蘇る。

−−この気持ちに。

−−気付いてしまった。


惚れてたんだ、俺。

片倉さんに。


あまりに胸が苦しくなって、片倉さんに今すぐに会いたくなって。
もう見えるはずもない城のある、後方に振り返る。




片倉さんに抱きしめられたあの時、

俺は気付いてはいなかった。

夕陽に照らされていたため、片倉さんの頬が染まっていたことに。


end

↓あとがきとおまけ

↓あとがき
「無自覚な恋」続編のつもりで書きました。リクエストもいただいたので。
しかし、残念感が拭えずにすみませんでした。
奥州に謝りに行ってみたら、自分の気持ちに気付いちゃった佐助。
でも相手の気持ちには気付いてないので、きっと混乱中(笑)
小十郎も、自分のことには鋭いけど相手のことに関しては鈍いので、こちらもきっと混乱中(笑)
この話もまだ続きます。多分。中途半端なので。







おまけ↓

※小十郎目線

ガラリと音を立てて勢いよく開け放たれたふすまに、猿飛が出て行った窓に向けていた顔をそちらに向ける。

「政宗様…」

「Hey.小十郎」

そこにいたのは、数ヶ月前に負った深い傷が癒え、ようやく歩けるまでに回復した主だった。

「ちょっと話が………って、どうしたんだお前、その顔」

「は、顔?」

主が言うままに顔に手を触れるが、なんら変わったように思えずに、自分の顔がどうかしたのかと尋ねる。
と、ぽかんと呆けていた主が今度は眉根を寄せたかと思うと、目の前まで歩みを進めてこちらを見上げた。

「お前、顔が赤いんだよ。体調が悪いんじゃねぇのか?俺が寝込んでた数ヶ月、全部お前に任せちまってたからな…」

「は、いや、そのような事は」

確かに、この数ヶ月は忙しくなかったと言えばそうではない。
むしろ、いつもよりしなければならない政務がかなりあった。
しかし、体調が悪いなんて事は本当に無い。
それは自分が一番よく分かっている。

「熱でもあるんじゃねぇか?」

「熱…。…いえ、本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

そう言って頭を下げると、主は仕方ないと言いたげな表情で軽く笑って、話しはまた明日にすると告げて、部屋を出て行った。

「熱…か。確かに、あるみたいだな…」

猿飛が去った方向に顔を向け、もうすっかり藍色に染まった空に向かって呟いた。
呟きは小さすぎて、一人きりの居室に吸い込まれてすぐに消えた。

しかし、
それはまるで、自分に言い聞かせているみたいで。

その熱があの忍によるものだと、気付かぬふりはできそうもない。


おまけend



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