本当の家族3(完)
「俺は…っ、人間でいたかった!!」
「兄さ、ん」
「俺だって、分かんねぇよ。気持ちは人間なのに、身体は悪魔そのもので…、『俺は何なんだ』って悩みもしたんだ」
「兄さんも、悩んだのか…」
雪男は目を見開いて、心底驚いた表情で、俺がこんな事で悩んでいるなんて思ってもいなかったのだろう。
「俺だって、雪男と同じだよ」
「兄さんと、同じ…」
「ああ」
「そうか、兄さんと同じ…。………ぶふっ」
雪男は、自分自身に言い聞かせるみたいに呟いて。
それから突拍子もなく、吹き出して笑い出す。
「なっ何笑ってんだよ!?」
「くっ、あはははは…!!ごめん…だって、兄さんと同じ悩みで悩んでたなんて…っ」
「失礼な奴だな!いいじゃねーか、双子なんだからっ」
「でも、だからって…!!」
涙まで流して本格的に笑い始めた弟に、最初こそは頭に来たが、次第になんだか可笑しくなって、同じように笑い始める。
――それから二人で気が済むまで笑い続けて、腹の痛みも収まった頃に、雪男がポツリと呟いた。
「…こんなに笑ったの久々だ」
「そーだな、昔はよく笑ってたのに」
「うん、僕と兄さんととうさんと、三人で笑ったね」
幼き日の思い出は、辛い事ばかりじゃない。
おぼろげながら、楽しくて三人で笑ったことを雪男と二人思い出す。
あの時は、確かに俺達は人間だった。
「なあ、雪男。…俺達が『人間』なのか『悪魔』なのか、それとも『どちらでもないのか』なんて。今すぐに答えが見つかる問題じゃない」
「うん、そうだね」
「でも、ハッキリしてることがひとつある」
「え?」
「俺と雪男が兄弟だって事だ」
俺がそう言うと、雪男は目を瞬いて今度は優しく微笑んで。
「しかも、双子だよね」
「ああ、今はそれで十分だろ?」
「それだけハッキリしてれば、十分過ぎるくらいだよ」
雪男の言葉は、先程の弱々しさは既に消えていて、雪男の中の不安が小さくなっていると感じた。
それと同時に、俺自身も気持ちがかなり楽になっている事に気付いて、内心で笑う。
「悩みが同じなんて、いかにも双子らしいな」
「本当だね」
「そこ以外は似てないけどな。俺って出来が悪いしさ」
「あれ?自分が出来が悪いって自覚あったんだ?」
「うるっさいな!お前はいちいち一言多いんだよ!」
俺が突っかかると、雪男はいつものようにニコリと笑って、
「…ありがとう、兄さん」
と言って、軽やかな足取りで部屋を出て行った。
「…礼を言うなら、俺の方だ」
もし、一人だけだったのなら。
俺も雪男も一人で悩んで、悩んで…。
最終的にどうしようもなくなっていたに違いない。
お前がいてくれて良かった。
本当に良かった。
「お前が兄弟で良かったよ。ありがとう、雪男」
恥ずかしくて雪男に面と向かって言えやしないだろう言葉を、雪男が消えた方向に呟いた。
雪男の気持ちが軽くなった事に俺が気付いたように、
俺の気持ちも軽くなった事に、雪男も気付いているだろうと想像して。
少しだけ笑った俺は、晴れ晴れとした気分のまま、手付かずだった課題に向き直るのだった。
end.
※課題に向かったはいいけど、やっぱり出来なくて、数分後には雪男に泣きつく燐。
あとがき↓
アニメで青の祓魔師にハマり、原作を読んで、またアニメを見たら書きたくなった内容を突発的に書いてみました。
もちろん、初の青エク小説です。
なので、設定が違っていたり、勝手に雪男の癖とか過去笑ってたとか捏造してます。
見逃していただければ嬉しいです…。
奥村兄弟が好き過ぎて、奥村兄弟しか出てません!
雪男×燐っぽくなかったですけど、あえて雪燐だと言わせて下さい。
青エク初心者なので、好きカプ不安定ですが、とりあえず燐は右側で受けは確定してます!
ネタが思い付いたら、また書くかもしれません。
その時はまたお付き合い下さいませ。
2011.05.16 柑奈
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