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本当の家族2



「…雪男」

「離せ…、っ」

「雪男!!」


雪男の瞳がゆらめいたのは一瞬だった。
次の瞬間には、刺すような視線を俺に向けていた。


「兄さんには、関係ないよ…!」

「…だから関係あるって!!」

「っ、ないって言ってんだろ!!」


誰もいない寮全体に響く雪男の怒声。
そこにいるのは、祓魔塾の講師でも、真面目な優等生でもない。
兄弟という対等な存在になった弟だった。


「雪男…」

「だから、離し…」

「…サタンのことか?」


俺がそう言うと、雪男は肩をビクリと揺らして、口元に力を入れて抵抗するのを止めた。



――ああ、やっぱりか。



雪男は昔から、図星をつかれると、肩を揺らして口元をきつく結んで黙り込む癖がある。
ただ、成長した弟は、最近は感情をあまり表に出さなくなって。
この癖も、感情が高ぶった時にしか見られなくなっていた。


「…、兄さんには隠せないな」


ここまで俺に知られたからか、雪男は諦めたように力を抜いて、そう呟いて苦笑する。
それから、ポツリ、ポツリと雪男の抱えていた悩みを静かに語り始めた。
俺は、雪男が本性を見せた事に安堵しつつ、雪男の言葉に耳を傾ける。


「とうさんが死んでから、改めて考えたんだ」

「…?」

「僕の本当の父さんは誰なんだろう、って」

「雪男…?」


俺が雪男の名を呼ぶと、雪男は慌てたように顔を上げて、
『もちろん、とうさんは本当の父親だと思ってるんだけど』
と言うから。
『俺もだ』
と返してやると、雪男ははにかんでから言葉を続ける。


「兄さんは、サタンの炎を継いでいて、間違いなくサタンの子だ」


それを聞いて、ジジイを介して初めて会話したサタンのことを思い出して、酷く胸が痛くなる。


「…ああ、サタンにもそう言われたよ」


――『ハッピーバースディ、我が息子よ』
―――『パパって呼んでもいいぜ?』
――――『ギャハハハハハ!!』


頭の中でこだまするアイツの声に吐き気すら覚えたが、それに耐えて雪男を見つめる。


「僕と兄さんは、サタンの憑依体と人間の女性との間に生まれた子で。でも、力は兄さんだけが継いだ」

「…」

「兄さんはサタンの子と言われてる。でも、でも僕は何なんだ…!!」


雪男の言わんとしていることは何となくだが、理解できた。


「僕はサタンの憑依体の子供に間違いないのに、不思議とただの常人で…っ」




――雪男は自分の存在に悩んでいたんだ。




「…僕は、悪魔じゃない。でも、人間でもない…」


雪男の声は微かに震え、それを隠すこともせずに、抱えていた気持ちを言葉に変えて口から零し続ける。


「兄さんは、サタンの子だと言われているけど。…僕は、人間だとも悪魔だとも言われたことはない。いや、僕自身にも分からないんだ…僕は人間なのか、悪魔なのか…!!」


雪男の言葉は、衝撃だった。
だって、俺も似たような感情を持っていたのだから。


「…ゆ、き、」

「……ごめん、兄さんには関係ない話をしたね…。これは僕自身の問題だ」


全ての気持ちを出し切ったのだろう。
雪男は我に帰ったかのように謝罪して、顔を背けてまるで何も無かったかのように、そう言った。


「俺だって!!」


それを聞いて、俺は反射的に叫んでいた。


「…え?」

「そんなの、俺だって同じだろ!!」

「兄さん…?」

「俺は、生まれた時から人間だと思っていたし、幼い頃もジジイの言葉のお陰で、人間だと思えていた」


ジジイが死んで、自分がサタンの子だと認識した後も、周りから、サタンの子だと言われても。
自分が悪魔だとは思わなかった。




――いや、思いたくなかった。






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