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Gift.(小十佐)
お花見2

「お前…今まで桜を見たことがねぇのか?」
「俺は一応忍びだからさ、小さい頃から裏の仕事をしてるから季節とか風物とか知らなかったんだよね〜。
 言葉は聞いたことあったけど見たいとも思わなかったしね〜」

それだけコイツには“忍び”としての訓練がされていたのか。

佐助は今こそは人のように笑い、泣き、怒るが、どちみちは忍び。すぐに忍びとしての本性が出てしまうのだ。

だけど今のコイツは…

人の姿をしていた。
忍びではなく、
己の本当の“人の姿”をしていた。

「…本当に綺麗だね」

神聖なる満月の光に見初められた忍びは溜息を吐き出すように呟く。
戦化粧で唇に何か塗ったのか、月の光で妖艶さを纏い、きらきらと光っている。
ケラケラと先程までは笑っていたのに、今は切なそうに桜を見つめていた。

「…また今度真田や政宗様も誘って花見をするか?」

なんでそんなことを口走ったのか分からなかった。
だが口走った後悔は抱かなかった。

「花見?」

こくりと首を傾げる。

「桜を愛でることだ」
「それじゃあ今やってることも“花見”じゃないの?」
「そうだな」

クスクスと嬉しそうに笑っているこの感情豊かな忍びの顔をもっと見たい、と思った。
理由は自分でも分からない。

「夜にする花見は“夜桜”というんだとよ」
「へぇ、物知りだねぇ」
「真田の好物の“花見団子”もあるからぞ」
「うわ〜…行く時は前もって注意しとかないとね…」

その時、激しい風が吹いた。
ざわざわと桜が神聖なる声を出しながら、自分の体に付いた薄桃色の花弁を散らしていく。
気を付けないと足が捕られ、転んでしまうぐらいの桜の風が。
激しい風が小十郎と佐助の元にも当たる。
佐助の満月の光輝いた顔に薄桃色の桜の荒らしが。
ビックリしたように大きく見開かれた森のような色のした大きな瞳。
驚きで小さく開いた唇。
この世のモノとは思えないほどの儚く、美しい生き物に見えた。

この忍びが正しく“サクラ”。

小十郎は風に背中を押されながら、佐助に迫る。

「かっ片倉の旦那…?」

言葉が少し揺れている。恐れているのだろう。
でもそれよりも自分のこの足は何故動いてる?
何故コイツに向かっている。?

小十郎が近づく度に、佐助は一歩一歩と後ろに下がるが、佐助が退く度に小十郎は一歩一歩近づいてくる。

「…!」

近づいていくうちに佐助と小十郎の体は桜の大木に近づき、終いには佐助の無防備になっている背は桜の大木に預ける形となってしまった。
小十郎は両腕を佐助の頭の隣に逃がさぬよう、自身の両腕を置く。
お互いの吐息が当たる。
黄緑色の瞳が揺らめく。


「猿飛…」

黄緑色の瞳と、大地に見初められた色の瞳の視線が絡み合う。


「なっ何、片倉のだn…んふ?!」


また先程よりも強い風が吹いた。
桜の大嵐が。


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