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Gift.(小十佐)
お花見1【相互記念:鬼蜘蛛さまより】

空は雲一つない綺麗な闇空。
おまけに黄金色に輝く満月も出ていた。



「…今日は酒でも一杯、飲むか」

ひたすらに筆を動かしていた手を止めた。
白石城にいる家臣に酒の入った徳利と御猪口を用意させ、縁側に腰掛けながら独りでに飲む。
満月に照らされた木々などは綺麗に輝いていてとても酒の肴に丁度良かったのだが、少し物足りない。
春らしい優しい風が庭に吹く。
木々から落ちた葉が風に乗り、何処かへ旅立つ。そんな旅人達の中に混ざる、薄桃色の小さな花弁。

そういえば今の桜は見頃だと言ってたな…。
今年は桜を一度も見ていない。

小十郎は徳利と御猪口を一旦、床に降ろすと、執務をしていた部屋に戻り、背紋が月の模様が描かれている羽織を着る。
履き慣れてくたびれてしまった草履を履き、縁側から出た。
縁側から遠退いていくと、恐ろしいぐらいに人気がなかった。
視線を下に降ろすと、地面に並べられた石の地盤の上には風で飛ばされた薄桃色の桜の花弁が。
桜のある広場まで行くと花の美しい匂いが鼻を擽った。
だが、そこに桜にはないはずの色が混ざっていた。


敵か――?


歩を早める。その色合いのある場所まで手を伸ばすと普通に届く距離までに近づいた。
そこにいた者は意外な人物でそいつは小十郎に気づいた様子はない。

「お前…武田の忍びか?」

真田幸村に仕える忍び・猿飛佐助だった。
いつも身に纏っている忍び装束で鎖帷子からは鋭い刃が光っている大型手裏剣が小十郎を覗いていて、刀を身に纏ってなかったのを思い出し、ちっ、と舌打ちをする。
舌打ちが聞こえていたのか、佐助はクスクスと小さく笑う声を返し、ゆっくりと小十郎の方に向き直りながら、敵意はない、とばかりに両腕を上げた。
いつでも殴りかかれるように低い姿勢でいたが、殺意のない忍びに何処か安堵して姿勢をいつものように直す。
ヘラヘラとした笑いを浮かべているがこの忍びの気からは殺意が感じないのだが、一応は敵。警戒心は解くつもりはない。
でも気にしないというように、佐助は両腕を下げて、また、桜の木に向き直る。
ゆっくりと片方だけの腕を上げて花が芽吹いている枝を無駄な力を入れないように、そっと掴み、ケラケラと未だに笑っている顔に寄せた。

「…何してる」

この忍びは何がやりたい?

佐助は掴みよせた桜をジッと見つめる。花の形全てを記憶しているかのように身動き一つしない。

「“桜”っていうんだよね、この植物」

小十郎の問いには答えず、反対に自身の問いで返す。
会話になって無いと少し思うが、気にしないでおくか。

「そうだ」

警戒心は解かずに、そっと佐助の隣へ足を動かせる。
佐助は子供が己の欲しかった玩具を手に入れた時のように嬉しそうに笑い、隣にいる小十郎を見る。

「本当!?俺様、桜見たことがなかったんだよね〜!真田の旦那から聞いてて“綺麗だ”とは聞いてたけど、こんなに綺麗だなんて思わなかったよ!!」

本当に初めてなんだろう、純粋に喜んでいる佐助の黄緑色の瞳を見て、己の城に生えている桜を褒め称えられ悪い気分ではなかった。

「そうか…。俺の家臣たちが手塩にかけて世話をしてくれてるからな」

「へぇ〜。こんな綺麗な植物があるんだったらもう少し前に気づけばよかったな…」


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