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しあわせが安上がりな二人(仁王)


高校生仁王くんと年上の彼女さん




雑踏を右に左にくぐり抜けて、さっき連絡したばかりの彼女のところへ急いだ。テスト期間中は部活もないし、学校もはよ終わるし、だから思い立って電話してみたのだ。私はいいけど勉強しないの?大丈夫。アアそう、ハハ、じゃあ駅なかのいつものカフェにいるからね。うんわかった。平日の午後なのに街に人は溢れかえっていて、テスト中なのもあってか制服が目立った。俺もそのなかのひとりなんだろうけど。もうちょっとで着くとこだったのでその旨をメールしたら、なまえさんはまだ着いていなかったらしく、せっかくだからその手前で会おうよ、と駅前の有名な待ち合わせスポットを指定する返事がきた。既に通り過ぎてたので慌てて踵を返し、俺たちみたいに待ち合わせしてるだろう人の群れを見渡すと、ぽつんと立って俯き、携帯をいじるなまえさんが見えた。俺がメールに返事してないからかな。真ん前に立って見下ろすと、気配と影に気付いてぱっと顔をあげた。



「待った?」
「……仁王くん」
「なに」
「制服だ!」

そういえば学校帰りに会うのは初めてかも知れない。こんにちはとか元気そうだねとか、それ以前に待った?という俺の問いに対する答えもすっ飛ばしてなまえさんは目をきらきらさせた。制服がそんなに珍しいんだろうか。とりあえず、ああ、まあ学校帰りじゃけ、って言ってみた。

「そっかーそうだよね高校生だもんね、ブレザーなんだねえ」
「……そげに気になるもん?」
「だって私もう着れないし、うちの学校ブレザーじゃなかったし」
「え、じゃあなまえさんセーラーやったの?」

それはちょっと見たい。
なまえさんは俺の袖やジャケットの中に着てるシャツの裾をくいくい引っ張りながら(かわいい)、ふーんだのへーだの言っている。ふざけて着てみる?って聞くと、目をぱっと大きくしていいの?!と声をあげた。そんなにか。なまえさんはいそいそとジップアップのパーカを脱ぎ、俺が差し出したブレザーのジャケットをTシャツの上から羽織った。

「わーこれおっきいね!」
「まあ俺のやけぇね」
「あはは、やっぱり仁王くんの匂いするね!香水とかの」
「………………」
「へえーこんな感じなんだ。意外とあったかいんだねえ」
「……そう?」

手に持ってるのも邪魔なので俺もなまえさんのパーカを着てみたら意外と肩とかは入るのだった。ただ丈と袖がちょう短い。なまえさんは俺のジャケットを着たまま爆笑している。袖からは指の先しか見えないし、裾はもう少しで膝に届きそうだし、この人俺と比べてどんなけ小さいんだろう。彼女が着てるときは、このパーカもジャストサイズだった。

「ねえねえ仁王くん、写メ撮って写メ」
「ええー……」
「いいじゃん!ハイ、これで真ん中押せば撮れるからね」

なまえさんは俺に携帯を持たせて、それぞれの相手と待ち合わせる人々のなか、にっこり笑ってピースしてみせた。ぶっかぶかのブレザーを着た確実に高校生ではない女と、何故か丈の異様に短いパーカをシャツの上から羽織った男子高校生が携帯片手にわーきゃーしてるところって相当わけわからない。まあ俺たちは楽しいけぇ構わんけどさ。なまえさんはありがとう、と言って俺から携帯を取り返すと、今度は俺にカメラを向けた。顔とポーズを作ってやったら、吹き出しながらもなんとかシャッターを押したようだ。

「みしてみして」
「仁王くんもーほんとこの顔!顔!」
「男前じゃろ」
「ふふふ、うん、そうなんだけど、パーカとのギャップがね、ははは」
「惚れ直した?」
「うん!」

ふと気がつくと、周りの人にちらちら見られていた。なまえさんも気付いてはいるようだったけど全くの無頓着で、だからわざわざ大人しゅうしよって言う必要もないかと思って、ブレザーや携帯を嬉々としていじる彼女を見ていた。と、ひとりの女と目が合った。

「……なあ、そこの」
「えっ、」
「仁王くん?」
「写真お願いしてもええかの」
「……あ、」
「えっ仁王くん、」
「二人で写りとおない?」

にこ、と笑ってみせるとなまえさんは一瞬ぽかんとして、次の瞬間ぱあ!と笑って、写りたい!と言った。そんで、まだ戸惑っている風の女に向かって、お願いしていいですかーって自分の携帯も押しつけた。俺も大概だけど、なまえさんも結構神経太い。

「……、はい、どうぞ」
「わーい!ありがとうございます〜〜」
「どれどれ」
「んー、待ってね……ふはは!私たちめっちゃ頭悪いね!」
「確かに……」

画面には、それぞれずるずるに長いブレザーとぴたぴたのパーカを着た男女がピースして写っている。なまえさんが待ち受けにしよーって言うので、ほた俺も、とこのばか丸出しの画像を待ち受けに設定してみた。携帯を閉じて、開けて、爆笑した。

「いかん、これは……!」
「あはは、面白いねえ」
「これでテストもがんばれるぜよ」
「それはよかった」


上着を交換して、なまえさんはさあお茶しに行こうと言った。そういえば、なんとまだ待ち合わせ場所から動いていなかったのだった。



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