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だって昔はすきな人いるって言ってたからだから一回諦めたのに(綱吉)



成人式は行かなかった。振袖とか着ておめかしするのも面倒だし、会いたくない人いっぱいいるし、せっかく祝日なんだから寝てたかった。当然そのあとにやるらしい同窓会も行かないことにした。高校卒業したあとなぜだか何回もやっていたらしい同窓会は、最初の1回だけ行ってその後は行ってない。会いたい友達には直接遊ぼうと言えばいい。大人数で集まるのは昔からずっと苦手だった。人と会うなら2人きりがベストだ。仲がいいならね。


というわけで成人式当日の夕方、家にいたら友達から電話がきた。この人同窓会行くんだったけかなあ、酔っ払ってかけてきたとかだったら嫌だなあと思いながら出ると、本人は普通だったけどその後ろが大騒ぎだった。店の外に出てからかけてこいよ。


『もしもしー!なまえー?!』
「聞こえてる聞こえてるうるさい!」
『あのね、いま同窓会中なんだけど』
「うん、まあ、そうみたいだね」
『沢田がね、』
「……沢田?」
『えっ忘れちゃった?』
「いや覚えてるけど、へえ、沢田くん来たんだあ。意外」
『うん、で沢田がさ、なまえの連絡先教えて欲しいって。携帯こないだ水没したんだって』
「ああ、いいよ、教えて」
『わかったーありがと!かわる?』
「どっちでもいいよ」
『沢田ーかわる?…なんかあとで自分で連絡するってよ、』
「わかった。みんなによろしくね、楽しんでね、じゃあね」
『うん、じゃね』


ぷつ、と電話を切ってベッドに投げた。沢田かー、沢田ねー。随分懐かしい名前が出てきたもんだ。私と仲がいい子を覚えているあたりが沢田くんらしい。私は沢田くんと高校からしか一緒じゃないので彼の中学時代を知らない。びっくりするくらいの変わり方だったらしいけど、私は高校時代の落ち着いた、頭のいい(けど勉強はそこそこくらい)沢田くんしか知らない。人間関係と人の感情に敏感だった沢田くん。


(会いたいなあ)


会いたいなら遊ぼうと言えばいい。けど、私はいまの沢田くんの連絡先を知らないし、沢田くんはそのうち連絡をくれるらしいので、私がするべきなのはいまは待つことだ。沢田くんは私の男友達としてはかなり、いやいちばん仲の好かった人で、話していると楽しくて、らくちんで、私は高校時代かなり沢田くんをすきだった。沢田くんめ、早く連絡よこせよ。ベッドに寝転んでうんともすんとも言わない携帯をぎゅーっと絞めてやった。苦しかろう。




気付いたら寝てしまっていた。
携帯をみると着信3件で、全部同じ知らない番号だったので多分沢田くんだ。寝起きで回らない頭でかけなおした。なんと2コールで出た。待たせちゃったかな?


『もしもし、』
「沢田くん!ごめんなさい」
『いや、いま大丈夫?』
「全然大丈夫。あのあと待ってたんだけど寝ちゃってた。ごめん」
『謝んないでよ。気にしないで』
「うん、ありがとう。久し振りだね」
『そうだね』
「もう同窓会終わったの?」
『一次会はね。二次会は遠慮した。つーかおまえなんで来なかったの?』
「会いたくない人もいるからさ。でも沢田くん来るならがんばっていけばよかったなあってさっき思った」
『……なんで』
「沢田くんには会いたいよ。今度遊ぼう」
『……今度、』
「うん。なに、忙しいの?」
『忙しいっていうか……あのさ、いまじゃだめかな』
「いま!」
『うん。俺駅前ぶらぶらしてたんだけど』
「だめじゃないけど、でも支度しなきゃだめだからちょっとかかるよ。1時間くらいかかるよ」
『俺は平気だけど、』
「じゃあいまから行く!どっかお店入って待ってて、寒いでしょ、」
『はは、わかった。慌てなくていいから』
「いや急ぐよ!場所決まったらメールして、じゃああとでね!」
『うん、またあとで』


さあ大変だ!沢田くんに会えることになったのはうれしいけど、思いっきり部屋着ですっぴんの私だった。成人式からの同窓会でいつもよりうんとおめかししてカワイイカワイイ女の子ばっかりみただろう沢田くんにどんなかっこうして会えばいいのかな。少し考えたけど、いつものようにすきな服をきた。パーカにジャケット、サルエルパンツ。急いでいるから底の平らなブーツを履いていくことにして、ぱあーっと化粧をして、髪もセットするのが面倒だからひとつにくくって、財布と携帯と鍵だけ持って家を飛び出した。
駅前について携帯をみたら、駅ビルに入ってるスタバにいるねってメールがあったから急いで向かった。沢田くんどんな感じになったのかなあ。変わってていいけど、昔のよかったところ、私がすきだったところはそのままだといいな。お店に入ってきょろきょろあたりを見回すと、窓際のカウンター席に座ってぼんやり外をみてる男の人がいた。沢田くんだ。駆け寄って隣に座ると、一瞬目を見開いてからぱっと笑った。


「みょうじ、」
「ごめんね遅くて、」
「いや全然。女の子にしたら早いほう」
「はは、だっていつもどおりだもん」
「いつもどおり?」
「うん。沢田くんさ、今日はおめかしした子ばっかみてただろうしちゃんとしなきゃだめかなと思ったけど、やめた。それより早く会って少しでもたくさん話したいよなあと思って」
「……そっか」
「そう!だからあんまりかわいくないよ、ごめんね」
「そんなことないよ。ねえ、なににする?いきなり呼んじゃったし、おごるよ」
「うそ!ありがとう!じゃあね、キャラメルスチーマー、の、トール!」
「オッケ、買ってくる」


というわけで沢田くんはキャラメルスチーマーをおごってくれた。とりあえずやさしいところはそのままみたいだった。同窓会どうだった、って訊いたら、まあみんなおんなじ感じ、と笑った。

「そっか」
「俺なんでみょうじもいると思い込んでたんだろ。おまえの性格考えたら来なそうって思うよな」
「ほんとだよ。でも連絡先ちゃんと聞いてくれてありがとうね」
「……おまえも変わってないよね」
「そお?」
「うん。すぐ謝ったりお礼言ったりするところとか」
「大事だからね」
「さっき電話したときさ。おまえ切るとき、楽しんでねって言ってただろ」
「ああ同窓会中のやつね!」
「そういうとこ変わってないなーって思った。俺のすきなとこ」
「……あのね、沢田くん」
「うん?」
「沢田くんの私のすきなとこも変わってないよ」
「……どういうとこ」
「やさしくて、話してると楽しくて、らくちんで、一緒にいると落ち着くところ」


隣に座る沢田くんはじっと私のほうをみて話をきいていて、私の言葉を聞くとやさしく目を細めた。ありがと、と小さく言ってコーヒーを飲んでいる。喉仏が、くん、と動いている。男の人だなあ。


「みょうじさあ」
「うん」
「………………」
「なんだよ」
「なんか訊くの恥ずかしくなってきた」
「彼氏ならいないよ」
「………………」
「アッちがかった?」
「……違わないけど!」
「沢田くんは?」
「……、いまはいない」
「ええー!もてそうなのに」
「もてないよ!」
「すきな人はいないの?」
「……みょうじ、おまえ………」
「えっなに」


沢田くんは店内を見渡して、こそこそ話するみたいに私の耳を引っ張った。


「さっきの」
「え?」
「いちおー告白みたいなもんだったんですけど」
「……え?!」
「はは、顔赤い」
「沢田くん、だって、高校卒業してから全然会ってなかったじゃん……」
「まあね」


けど俺はすきだった、と沢田くんは笑った。うそだ。ずるい。それは卑怯だ。ぶわっと涙が出てきて、余裕たっぷりだった沢田くんは一気に慌てた。ちょっとかわいい。


「えっ、ちょっ、」
「沢田くん、私、面倒な女だよ……」
「…そんなの、思ったことないよ」
「みんなみたいにかわいくもないし」
「そんなことないってさっきも言ったじゃん。かわいいよ」
「沢田くん」
「ん?」
「私が会いたいって言ったら会いに来てくれることはできる?」


沢田くんはしくしく泣きながら話す私の頭をずっと撫でていたけど、その手をとめてまばたきして、花が咲くみたいに(陳腐だけど本当にこの比喩がぴったりなの!)ふわあと笑ってみせた。


「そんなの簡単だよ」
「ええー……」
「みょうじが俺と一緒にくればいい」
「えええー……」
「嫌?」
「嫌じゃないけど」

一緒にってどこに?そう訊いたら、イタリア!ってにっこり笑って言う。沢田くん、私イタリア語なんて話せないんだけど。

「だからね、沢田くん」
「うん」
「本当の意味でずっと一緒にいなきゃだめになるよ」
「いいよ。っていうかそれこそ俺が望んでることだよ」
「……沢田くん」
「はいはい」
「だいすきだからキスして欲しい」
「……ここで?」
「やだ?」
「まさか!」



私もうこのスタバ来れないなあって言ったら、むしろ日本にあんまり帰って来れないよって言われた。ちょっと早まったかなあと思ってしまった。



あきゅろす。
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