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ああそういえば人殺し(リボーン)



カフェでのバイトなんて絶対性に合わないと思って選択肢にも入れたことはなかったけど、親戚の経営するお店で人手が足りないからと無理矢理手伝わされたのが運のつきで、いつまで経っても私が解放される気配はなかった。更に言えば、店主は新しいバイトを雇う素振りも見せなかった。腹が立ったので、無理矢理引っ張ってきた親へのあてつけも兼ねて「私が学校やめたらバイトじゃなく正式に雇ってくれる?」と聞いたらあっさりオーケーが出たのが2ヶ月まえ。バイトから正社員(って言っていいんだろうか?)になったのが1ヶ月まえ。元々大きなお店ではないのでやたらめったら混むこともないし、飲み物も軽食も店主である伯母が全部作るので私でもまあまあなんとかなっている。物を運んで、店内をキレイに保って、お客様と話して、常に穏やかかつ笑顔でいることが私の仕事だ。今日もからんころんとドアベルがなる。


「こんにちは。いらっしゃいませ」


伯母はうるさいのを嫌うので、やたら大声でいらっしゃいませを言うことはしない。私も騒がしいのはすきではないのでそこは楽だ。そしてその雰囲気を好んでやって来る人も多いのだ。



「よお、」
「今日もエスプレッソですか?」
「…わかってきたじゃねーか」


黒いハットをかぶった常連さんはにい、と口角をあげて笑った。その向かいに座る男の人とは初対面なので注文を待っていると、じゃあケーキセット、カプチーノでと言われた。ケーキセット!大人の男の人が、しかもすごい上等そうなスーツを下品にならない程度に着崩したこの人がケーキセットって、なんだかやたらかわいいなあと思いながら今日のケーキの説明をしようとすると、常連さんは渋い顔をしてメニューで男の人をはたいた。


「なにすんだよリボーン!」
「おまえなあ、さあいまから人殺す算段しようっつーときにケーキセットはねーだろケーキセットは」
「なんだよ別にいいじゃん!ここのケーキおいしいって評判なんだぞ」
「……そうなのか?」
「えっ、まあ、その、私はおいしいと思いますけど!」


人殺しだなんだと物騒な単語にびっくりしていたら急に話を振られて盛大にどもってしまった。どもったうえに、ハイ評判いいですなんて言うのは気がひけて、でも伯母のケーキがおいしいのは事実なので、思い切り主観だけの答えをしてしまった。笑われるかと思ったけど、常連さんはむう、と考え込んで、


「……じゃあ俺もケーキセットで」
「あっ、はい、じゃあケーキセットお二つ、エスプレッソとカプチーノで」
「おまえ……」
「なんだよダメツナ」
「べっつにい!あ、ねえ、今日のケーキってなあに?」
「今日はですね、モンブラン風の栗のタルトかオレンジピールのシフォンかどちらかをお選びいただけます」
「おおおおお…リボーンどっちにする?」
「……おまえは」
「へっ?」
「おまえはどっちがうまいと思った?」


常連さん(…リボーンさん?)に聞かれて考えたけど、私はどっちもすきだった。女の子同士なら半分こも出来るだろうけど、大人の男の人ではそれもしづらいだろう。


「あの、」
「ん?」
「ちょっと、ちょっと待って下さいね!」


カウンターでのんびり飲み物を作っていた伯母に駆け寄った。「ねえおばさん、ケーキ半分ずつってしちゃだめ?セットの!」「え、タルトとシフォンを?」「うん、勿論量も半分ずつでいいから」「ああ、まあいいけど。じゃあそうやって切るね」「ありがとう!」急いで席に戻ると、二人はぽかんと私を見上げた。なんだかかわいい。


「あの、本当はどっちかひとつなんですけど、どっちのほうがおいしいって私にはちょっとその、決めかねるので」
「はあ」
「2種類を半分ずつお出しします。どちらもきっとお口に合うと思いますので」
「えっほんと?!」
「はい。あのでも、特別なので、誰にも内緒にして下さいね」
「……ありがとう」


ワアワアはしゃぐ……つな?さん?をまたメニューではたいて、常連さんはふと目を細めてお礼を言ってくれた。いいえと答えてカウンターに戻ろうとしたら、伯母がちょうど飲み物とケーキを運んできたところだった。まあ、お店狭いから。いまはお客さんもあまりいないので、注文の声はすっかり聞こえていたんだろう。


「お待たせしました」
「いやいや、こんなにお待たせしないお店初めてですよ、俺」
「あはは、はいカプチーノ、と、エスプレッソ」
「ありがとう」
「おばさんごめんね、」
「ううん。こちらこそ、お仕事とっちゃってごめんなさいね」


ではごゆっくり、と告げて二人してカウンターに入る。何とはなしに店内を見渡すとさっきとは全然違う顔をした二人が何やら話し込んでいて、でもケーキを食べる度空気がほんわかゆるんでいるのが目にみえるようだった。



他のお客さんの対応をしていたら、先程の二人に勘定を、と頼まれたので慌ててレジスターのまえに立った。お金をもらってお釣りを渡して、じゃあ、と帰ろうとした常連さんを思わず引き止めてしまった。店員風情が迷惑かなあとも思ったけど。


「え、」
「すいません、あの、…リボーンさんていうんですね」
「……ああ、」
「なんか、ずっと、よく来てくれてたのにお名前も知らなかったんだなあって。あんまりお話したことないんだなと思って」
「………………」
「だから、今日、少しですけどお話できて、名前も、……ぬ、盗み聞きになっちゃうのかも知れないけどちゃんとわかって、よかった、です……あの、」
「……おまえは?」
「……は?」
「俺だって知らねーぞ、名前。おまえの」
「あ、なまえ、です……すいません、」
「……なまえ」
「はい!あの、またいらして下さい。そちらの、」
「ツナヨシだよ!」
「あはは、ツナヨシさんも、是非」


お引き止めしてすみません、と謝ると、ツナヨシさんはまた来るよと笑って、なぜかリボーンさんの肩を2回たたいてから先に店を出てしまった。リボーンさんはまた渋いしぶーい顔をしてツナヨシさんの出ていったドアを睨みつけている。


「……リボーンさん?」
「ああ、また来る。次はひとりで」
「え、なんでまた」
「話し相手はなまえだけで十分だろ?」
「……がんばります!」
「なにをだよ」


リボーンさんはくく、と笑って、私の頭をさらりと撫でてから、またなと言って出ていった。かっこいいなあ、スマートだなあ、きっともてるんだろうなあ。何故だか表から銃声と男の人の悲鳴が聞こえたけど、リボーンさんたち大丈夫かな?



あきゅろす。
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