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しあわせのかたち(光蔵)



多分10年後くらい
財前と白石は同棲しているよ
光の甥っ子くんにひどい設定を付加しているので注意





帰ってきたら、一緒に暮らしている彼がダイニングテーブルに思いきり突っ伏していた。どーいうこっちゃ。玄関先でも言ったただいまを繰り返すと、テーブルにほっぺを寄せたまま、おかえんなさい、と言う。いつにも増してのローテンションに、こらなんかあったなあと思いながら向かいに腰掛けた。


「なに、どしたん」
「……甥っ子が遊びに来てたんすわ」
「落ち込むことちゃうやん」
「別に遊びに来たから落ち込んどるわけちゃう……」
「甥っ子くんがなんかしたん?」


光はやっと顔をあげると、性の目覚めっすわぁ、と生気のない瞳で言った。……まあ、甥っ子くんももうそんな歳やわなあ。しかし女の子ならいざ知らず、男の子が性に目覚めたからってそんなに落ち込むことがあるだろうか。腑に落ちん、と俺の顔に出ていたのか、光は誤解せんで下さいよと前置きして話しはじめた。


「あいつなぁ、」
「うん」
「……すきんなるの、男らしいんすわ」
「…………なんて?」
「うん、せやから、簡単に言うとまあ、ゲイっちゅーかホモっちゅーか」
「それほんまなん……」
「あいつはほんまやって言うてますよ。まあ親とかには言えてへんみたいやけど俺は、俺ってか、俺らは、ねえ?」
「……まあ、せやな。まず光に言うわな」


甥っ子くんは俺と光のことを知っているから、光にそのことを話す気になったんだろう。まあそら落ち込むわ。そら落ち込むよ。ずーっとかわいがってた甥っ子がまさかの同性愛者やもんな。これからの人生に待ち受けている苦難がありありとわかる。実体験込みで。光はもう一度、誤解せんで下さいねと繰り返した。


「俺は白石さんのことめっちゃすきになって、いまもすきで、一緒にいて、後悔しとることとか、ないんすわ。まあ白石さんに対しては、俺が手放してればもっとまっとうに暮らさしてあげれたかなとは思ったりもするけど」
「……俺かてそうやよ、」
「うん。けどなあ、やっぱり、悲しかったり苦しかったり、したでしょ。乗り越えるの大変なこともあったでしょ。それをするに値するような男とそう簡単には出会えないと思うんすわ」
「はあ、」
「俺は白石さんに会えたからええけど、」


光はおおきくためいきをついて、ソファのほうをちらりとみた。甥っ子くんが座っていたのかも知れない。あいつ顔はええねんけどなあ、と本気の声音で言うので俺は少し笑ってしまった。


「……なん?」
「いや、はは、甥っ子くんてさ、光と光の兄ちゃんのええとこ取りーみたいな顔しとるもんなあ思て」
「中身もすわ。兄貴に似て適度に愛想ええし、俺に似て頭ええし」
「なんやもったいないなあ」
「なにが」
「つまり愛想ええ光っちゅーことやろ」


もってもてやろなあって言ったら光はものそい嫌な顔をした。みんな光のことを冷たいだのわかりにくいだの言うけど、俺はこんな顔に出やすい子ぉもおらんと思う。俺は愛想ない光がすきやで!って言ってやると光は更にぶすくれて、フォローになってへんすわぁとそっぽを向いた。かわええやっちゃなー。


「いろんな子に愛想振りまいとる光なんかみたないもん」
「………………」
「光は俺にだけ特別やさしくしてくれたらええの!」
「………ハイハイ」
「うん。もう多分俺な、甥っ子くんみたら普通にもやもやすると思うわ。昔の光にそっくりやもんなー」
「なんや似んでええとこまで似てもうたって感じすわ」


光は頬杖をついて、目を伏せてちょっと笑った。けどなあ、すきなもんはしゃあないもんなあ。ためいきと一緒にそう吐き出して、光はテーブルにおいてあった携帯に手を伸ばした。


「連絡したげんの?」
「はい。さっきなんもうまいこと言えへんかったんで、リベンジ」
「うまいことって、」
「まあ聞いてて下さい。…………もしもし?いま大丈夫か?」



甥っ子くんはまだ外にいるようだった。ざわざわと喧騒が漏れ聴こえる。どっか静かなとこないの、と光が言って、そのざわざわは次第に小さくなっていった。


「……もう大丈夫?聴こえる?そう。いやな、さっきは悪かったなあ思て。……いやびっくりしたんやんかそれは。するよ。大人かってびっくりするよ。ほんまかなわんわぁ、子供って大人ならなんでもできるー思てんねんもん。え?子供や子供。大人びてるか知らんけど子供やろ」
「……ああ、せやな、どうでもええわこんなん。うん、いや、せやから、…あー、俺やっぱうまいこと言われへんなあ……(光は俺をみてちょっと笑った。)」
「うん、まあおまえの性癖とかどーでもええっちゅーか、まあどーでもよくはないけど、でもおまえのことやから。それは。俺はそんなんより、……そんなん、より、」
「ちょお待ってはずい。……うん、よし、言うわ。そんなんよりな、俺はおまえが、すきな人としあわせになれればそれでええねん。男とか女とか知らん。おとこおんな関係なくすきな人と一緒におれんのってすごいしあわせなことやっておまえにもわかって欲しいねん。それだけ」
「……は?なに?泣いとんの?はずいなーおまえ。俺たち二人して恥ずかしいな」
「うん、じゃあ、切るわ。気ーつけて帰り。またなんかあったらな、うん。じゃ」


光は携帯をテーブルにおいて、自分もごとん、と額を預けた。ごくろーさん、と頭を撫ぜる。光は小さく、うん、と言って、でもそのままだった。


「結局だめやなあ、俺」
「そんなことないよ。ええこと言うてたと思うで?」
「ほんま恥ずかしいっすわ……」
「ははは」


光は小さい声で、白石さん、と言った。なあに、と俺は言った。極力やさしい声で。


「白石さん、俺んことすき?」
「うん、すきやよ」
「白石さん、俺と一緒におるやんなあ」
「せやねえ」
「白石さん、」


俺といてしあわせ?
光はそう聞いて、俺の左手をぎゅうと握った(俺は毒手を卒業したときのことを思い出した。光は、これでいつでも白石さんの左手に直で触れますねえと言っていた)。俺は指ごと握りしめる光の手を一旦ほどいて、てのひらがぴったりくっつくように、指を絡めて手を繋ぎ直した。ぎゅう。光は顔をあげた。あんなあ光、


「すきな人と一緒におれんのはすーごいしあわせなことなんやろ?」



しあわせやなかったら、俺は毎日ここに帰ってこーへんよ。



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