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かちっ(光蔵)



高2白石と高1財前




恋人っていうのは足りないところを相互に補完出来る人だと言うけれど、俺にとっての財前はそれだったので、あっじゃあ俺って財前のことすきなんかなと思い当たったのだった。ただ俺的には補完してもらってるけど向こうがどう思ってるかはわからなかった。俺からすると、俺たちがジグソーパズルのピースだとしたら財前は必ず俺の隣にくる形をしている。財前と話していると、俺の心はカチッと音を立てる。財前が俺の凹凸にはまる音。



「部長」


俺はもう部長じゃないのに財前はいまだに俺を部長と呼ぶ。現部長のことは先輩、と呼ぶ。それって感じ悪いよなあと思ってたらやっぱり財前は先輩らに嫌がらせを受けていた。まあ財前はそんなのに拘泥しないから尚も俺を部長と呼ぶ。


「あんなあ、白石さんて言ったらぜーんぶまるく収まんねんで」
「俺が誰をどんな呼び方しようと俺の勝手でしょ」
「せやかて俺部長ちゃうもん」
「来年にはなってますよそんなん」
「……わからへんやん、まだ」
「俺がそうやないとやーなんです」


財前はちょっと笑って自分のロッカーを開けた。ら、ばさばさとなにかが飛び出してきて床にぶちまかれた。よくみると罵詈雑言が書かれた紙が主で、そんなかに埋もれた財前の制服を引っ張り出してみると、それにも落書きがたくさんしてあった。ありえへん。仮にも高校生のすることとは思えない。


「なん……、これ、」
「あー、まあ、シャツは何枚か持ってるし、大丈夫すわ」
「そういう問題とちゃうやろ!」
「うーん……まあよおあることやし」
「……え?」


財前は、あっ失敗した、ていう顔をして、何事もなかったように脱ぎかけたジャージをはおり直した。ごみを片付けてごみ箱にまとめて捨てて、恐らく油性のマジックで汚されたシャツをたたんでテニスバッグに突っ込んで、ほなお先に、と部室を出ようとする腕をひっ掴む。


「ちょお待ち」
「……なんすか」
「よおある言うたな」
「……言ってません」
「あほ。ちゃんと話しや」
「部長は関係ないやないですか」
「あーいま傷ついた!俺傷ついたよ!」
「うわめんどくさ!あーもう、そういう意味やのーて」
「ん?」
「……巻き込みたないんすわ。部長、こーいうの、気に病むほうでしょ」


失敗した、部長のまえではロッカー開けへんようにしてたのに、て財前は頭をがりがりかいた。えっていうか……えっ?


「財前」
「…はい」
「俺そんなに信用ない?」
「…………は?」
「部長部長って、俺、財前こんなやけど俺にはなついてくれてんねんなって、」
「いや、あの、信用とかそういうんやなくて、」
「財前、俺、そんな頼りないかなあ……」
「……部長、いつからそない面倒な人になったんすか」
「えっ」
「心配かけたないってことですよ。信用してへんわけでも頼ってへんわけでもないっすわ」


財前はため息をついて、こんなん俺は全然気にならんけど部長は気にしてくれるやろ、それがやーなんですって笑った。でもそんなんちゃうねん。俺は、俺も、ジグソーパズルで例えたら財前にとっての必ず隣にあるピースになりたいのだ。


「そんでも、言うてよ、財前」
「なんでっすか。つーかいまばれたからそれでええやないすか、不本意やけど」
「俺、俺な、」
「はあ」
「財前の拠り所になりたいっていうか」
「……うん?」
「必ず隣にくるピースに……」
「ピース……?」
「うん、せやから、」
「はい」
「俺な、財前のことすきやねん」
「えっ俺もう部長のこと全然わからへん」
「なんで?!」
「ピースてなんなんすか……ちゅーか泣かないで下さいよ」
「ジグソーパズル……」
「……あー、ああ、なるほど」
「わかった?」
「少しは。つーか部長」
「なに」
「俺、頼りにしてへん人のこと部長って呼んだりしませんよ。現部長でもないのに」
「……あ、」
「まあ、部長がそんなん言うなら、これからはいちいち言いますわ」


毎回泣かれてもかなわんしなあと財前はぼやいて俺の頬をジャージの袖で拭った。財前引き止めてごめん、まだ帰らへんの、って言ったら、部長が俺のことすきとか言うから部長が支度終わるの待ってんすけどって言われた。なあ財前それ一緒帰ってくれるってこと?俺はっきり言ってもらわなわからへん。


「財前」
「はい」
「すき」
「はい」
「財前は?」
「……どっちかと言えばすき」
「なんそれ!!」
「せやってまだわからんすわ」
「じゃあキスしてええ?」
「俺まだ彼女おるんでだめです」
「……まだってなに」
「明日別れるからそしたらええっすよ」
「えっ」
「はい?」
「なんかもう俺財前のことちょうすき」
「せやったら光って呼んで下さいよ」
「…ひかる、」
「……あっかんわあ」




部長かわええ、って光が言ってくれて、また俺の心はカチッと音を立てた。光が俺の凹凸にはまる音。



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