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受験も引越しも終わって久々に会った二人の話(新大学生28/20000打企画)


大学生になる春休みあたりを想定していただければよいかと





待ち合わせ場所に着いたらもう仁王くんがいたので、失礼ではあるけれど大変驚いた。時計を確認してもやっぱり時間よりは少し早めだった。ほとんど必ず遅刻してくるのに今日に限ってどうしたんですかね。仁王くんはまだ私には気付いていないようで、イヤホンをして自分の足元を見つめて立っていた。黒いパーカに黒いマフラー、黒いスキニーに黒いブーツという、髪と肌以外真っ黒の格好をしている。ので、白いイヤホンのコードがとても目立つ。こういうのなんていうんでしたっけ。


「あ、モード系?」
「……あんな、黒けりゃモードってわけと違うんよ」
「だから系ってつけたんですよ」
「………………」


こんにちは、今日は早いんですね、と言うと仁王くんはイヤホンをくるくる巻きながらちょっと笑った。……?。と、コードを巻き終わった仁王くんはいきなり私に体重を乗せてきた。額が押し付けられている肩口が地味に痛い。


「あの」
「んー」
「一応街中ですよ」
「んー」
「…肩、痛いんですけど」
「んー」
「……仁王くん」
「んー」
「………………」
「昨日なあ」


やっと「んー」以外の言葉が聞こえた頃には、私はすっかり諦めて手近な手すりにもたれかかっていた。つまり、仁王くん→私→手すり、と体重がかけられていて、通りすがる人々はなかなかにガタイのいい男が二人重なって手すりに寄りかかっているのを不思議そうに(というか不審そうに)横目でみていた。


「なんですか、昨日」
「なんかなー、上手に寝れんくて」
「そうだったんですか」
「うん。やけ、ずっと起きとったの」
「……言ってくれれば今日の約束は、」
「いやそれはよかよ。柳生のほうが大事」
「はあ」
「でもやっぱあかんわ……」


柳生みたら安心してねむたかー、と仁王くんはふらふらしながら、明らかに無理をしているとわかる動きで体を起こした。とろんとした目で「とりあえずどっか入ろ」と言う。


「柳生どこ行きたい?」
「うーん」
「どこでもよかよ。休めるとこなら」
「どこでもですか」
「んん。どこでもー、じゃ」
「じゃあ、少し遠いんですが」
「……まあ言うだけ言ってみんしゃい」
「私の家とかどうでしょう」


仁王くんは目をぱちっと開いて、え、と言った。徐々に次第に顔が赤くなっていく。


「えっ、それって」
「はい?」
「実家やのーて」
「はい」
「柳生さんの」
「はい」
「アパート……」
「はい。電車で、えーと、3駅程かかるんですけど」
「……そんなん、おれ、」
「はい」
「なしてこんな絶不調のときに……」
「…………ふは」


年不相応に頬を赤くしてぶすくれる仁王くんがおかしくて我慢せずに笑うと、仁王くんは更に眉をしかめて私の背中をばちんとはたいた。痛がる私を放って歩き出すもちゃんと駅に向かっているので、私のわがままは恐らく聞き入れられたんだろう。


「機嫌直して下さいよ」
「別にわるないよ……」
「ベッド貸してあげますから」
「じゃあ一緒に寝よ」
「そっ…れは、その、」
「はは、そげに心配せんでも」


どっちみちこんだるさじゃ何かやっちゃろっつう気も起こらん。仁王くんはまた半目になって低く笑ってみせた。ほとんど無意識のようにたばこに手を伸ばすのを、歩きたばこは危ないですよと咎めようとして、やめた。久々に仁王くんがたばこをのむところを見たい。仁王くんは私の目の前で、昔と変わらずバニラの匂いのする煙を吐き出している。


「仁王くん」
「なーに」
「今日泊まっていきます?」
「……柳生さん、」
「私、たばこすきじゃないですけど」
「いやあの」
「仁王くんがずっと吸ってるそれはやっぱりいい匂いですね」
「…ああ、うん、いや」
「それだったら家で吸われても許せます」



仁王くんはまた目を大きく見開いた。




「柳生さん、もしかして」
「なんですか」
「寂しかったの?」
「………………」



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