[携帯モード] [URL送信]
境界線上を歩く(ロマ♀西/20000打企画)



なんと付き合っていません





ベルを鳴らすとゆっくり鍵があき、ゆっくりドアが開き、やつれたアントーニョがふらりと現れてへらっと笑った。くたくたのTシャツを着ていて、だから襟ぐりも深いというかだらしないんだけど、そこから覗く鎖骨はいかんせん深すぎた。


「……ちゃんと食ってんのか?」
「いまから食うで」

ロヴィが作ってくれんねやろ、って言うのをばちんとはたいて部屋にあがった。床と言わずベッドと言わず散らばっているのはほとんどが紙のごみらしく汚くはないが、乱雑ではあった。アントーニョが裸足でなにかの資料を踏んで、かさりと音がした。

「なあなあなにつくんの」
「……、」
「やっぱパスタ?何味?」
「……黙って座ってろ」
「嫌」

キッチンに立って湯を沸かす俺の背はすっかりあいつに占拠されて、肩甲骨のあたりには額が押し付けられている。腕は回してこないあたり逆に嫌らしい。変な意味じゃないほうの。

「人の体温やなー」
「はあ?」
「ロヴィぬるくて気持ちい」
「……寝てれば?」
「いーやーやー」
「じゃあ野菜切って」
「それも嫌」
「……じゃあ離れ」
「それも嫌!」

ついに腹に腕が回されてぎゅう、と締められる。指まで痩せて前より骨張ってみえるのは気のせいだろうか。ぐぐ、と体を押してけてくるから、作業をする手は休めないで俺も体重をアントーニョにかけた。少しだけ。

「まーなんでもいいけど邪魔はすんなよ」
「うん。おなかすいとるもん」
「だからひとりでもちゃんと食えって」
「でもなおかつねむい……」
「………………」

無視かよ。
ベッドいけよ、と言うとやっぱり嫌だと言う。毎度のことながらわけわからん。とうとう立つのもしんどくなったらしく、俺に手をかけたまま、アントーニョはずるずる滑って床に座り込んだ。

「はあ……アントーニョ、」
「あかんねむい……」
「おら、飯できたら起こすからそれまで寝てろ」
「せやからそれは嫌やって」
「じゃあ、」
「一緒寝よ」

ロヴィーノは一緒寝よって言うたら嫌?ってアントーニョは床から俺を見上げた。だるだるの首もとから谷間がみえて、ああ、おまえ、また下着つけてねえの。そんなでけーのに、垂れるよ。なんて。アントーニョはもう一度、嫌?って聞いた。そりゃ、まあ、嫌ではねーよ。

「……けどよ」
「うん」
「それってさあ……」
「せやんなあ……」

ちょっと間違うとるよな。アントーニョは言ってかくんと首を折った。うん、と言って俺は湯の沸いた鍋をみて、少しばかり塩を入れるという作業に没頭したけど、そんな作業一瞬で終わってしまって、俺はまたアントーニョをみた。深く俯いているのでつむじよりうなじがよくみえた。

「ロヴィ」
「なに」
「俺、ロヴィのこと、めっちゃすき」
「……うん」
「ロヴィいなかったら多分、とっくに体壊しとるし」
「それはまあそうだな……」
「けど、なんか、なんかな」
「なんか なに?」
「……なんか、」


ちゃうよなあ。
アントーニョはほとんど泣きそうな感じの声で呟いた。俺はそれを黙殺してパスタを鍋にざっと入れて、そんで、腰あたりにあるアントーニョの頭、もしゃもしゃのブルネットを更にもしゃもしゃに撫で回した。うん、俺も違うと思う。俺もおまえのことを、こうやって世話焼きに来るくらいにはすきなんだけども。


「アントーニョ」
「んん?」

トマトの水煮の瓶を開けながら呼ぶと、くぐもってはいるけど返事があったので安心する。

「魚介とチキン、どっちがいい」
「……チキン!」
「元気じゃねえか」
「うん。ロヴィのおかげ」
「……ベッドまで運ぶか?」
「はは!大丈夫やよー」


じゃあおやすみ、とアントーニョは寝室に消えた。俺にはやっぱり、その向こうを覗くより他に大切なものがたくさんあるようにしか思えないのだ。



あきゅろす。
無料HPエムペ!