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爪先立ちの恋・リターンズ

『爪先立ちの恋』の続き
沖田高1神楽小6 土ミツあり


爪先立ちの恋・リターンズ
―花嫁修業―


神楽が土方にフられてから数週間。最初はミツバにも土方にもギクシャク接していたけど、それも今は慣れて今まで通り普通にベッタリしている。


「ミツバ姉!片栗粉溶いたヨ!」

「ありがとう神楽ちゃん。それじゃ鍋に満遍なく流してくれるかしら」

「ラジャーアル!」


毎日の夕食作りに神楽が参戦するようになった。ミツバのお下がりのエプロンを身に纏い、台所内でちょこまか動いている。端から見たら邪魔してるんじゃないかと思うけど、本人が満足してるならこれで良いのだろう。


「そーご!今日はカレーうどんアル!私がネ、これトロトロにしたんだヨ」

「わーホントだ、うまそー」

「棒読み!」


美味そうと思ったのは嘘じゃない。9割型はミツバが作ったものだし。ただ片栗粉を溶いた位で自慢気にしている神楽を褒めるのが癪だった。


「だってトロトロにしただけだろ?んなの料理どころか手伝ったにも値しねぇよ」

「て、手伝ったもん!」

「そうよ。神楽ちゃんお味噌汁作れるようになったんだから。そーちゃん朝ワカメの飲んだでしょ?あれ神楽ちゃんが作ってくれたのよ」

「え?チャイナが?あれだって…」

(姉上の味だった…)

台所から神楽の分と自分の分のカレーうどんをお盆に乗せ、柔らかい微笑みをこぼしミツバが顔をだした。そのお盆には七味唐辛子が用意されている。

ミツバと神楽が席に着き、いただきますをする為に手を合わせたが、沖田は神楽が沖田家の味を作り出したという事が認められなくて上の空で夕食をつまんだ。



――…
―――……



「はい、そーちゃん」

「ありがとうございやす」


ミツバから湯気の出ている湯呑み茶碗を受け取り、口をつけた。食後のこのゆったりとした時間が落ち着くんだよな、と年寄りくさい事を思ってしまう。
何時もは神楽がテレビのチャンネルを変えながら賑やかなこの時間だが、今日はやる事があるからと自分の家に帰っていった。


「今日ね、そーちゃんが帰ってくる前に神楽ちゃんとクッキーを作ったの。そーちゃんは男の子だから一緒に台所に立つって事無かったから、本当に妹ができたみたいで嬉しくて、」


ついつい構っちゃうのと、ふぅっとお茶を冷ましながらミツバは微笑んだ。
その一つ一つの行動がお淑やかで、自分の姉ながら綺麗だと沖田は思った。


「神楽ちゃんお嫁にきてくれないかしら。ね、そーちゃん?」

「……は?」

「今からお願いしてみて」


お願いしてみてって俺が頭を下げろってか…。4つ年下のガキに頭を下げてる自分を想像して沖田は虚しさに襲われた。
でも、お互いに貰い手が見つからなかったら……という考えが浮かんできて、大慌てで打ち消した。




***



金曜日
明日から2連休。大抵の学生は浮き足立ってるだろう。
沖田もその一人で、いつもより清々しい気持ちで朝を向かえようとしていた。


「んっ…んー……ん?」


寝返りをうつと昨夜布団に入った時には居なかった筈の神楽がくうくう寝ていた。

「コイツいつの間に…」


白い肌を全開に晒し、いつもと同じく縮こまって猫のようだった。
女は恋をすると綺麗になるって言うけど、神楽もそうなのだろうか。ちょっと上半身を浮かせて顔を覗いてみる。


「……(笑ってるし)」


どうせ美味しい物を食べてる夢でも見ているんだろう。ふにゃっと顔を緩め涎を垂らしている神楽の顔を見て、滅多に表情を崩さない沖田もつられて口角を緩めてしまった。

大丈夫。コイツはまだ…



「……ガキ」







それから直ぐに1階のミツバからの朝ご飯の召集がかかったので、神楽を叩き起こす。昨晩何をやっていたのかいつもより寝起きが悪い。…まぁ、いつも良いとは言えないけど。


「寝坊すっぞ。起きろチャイナ」

「ふにゅぅ…」

「んなだらしねぇ格好で…。土方さんが厭らしい目で見てるぜィ」


というのは勿論嘘。
恋は終わったとしても憧れている存在の土方の名前が出れば、どんな状況でも神楽は反応した。今日も例には漏れず飛び起きた。


「トシ兄!?何でサドの部、屋……に?」

「おはよー」

「騙したナ……ドS野郎…」

「起きないお前が悪い」


ギャーギャー騒ぎながら1階に下り、既に用意されてる朝ご飯の前並んで着席する。そっちの方が目玉焼きが大きいとかくだらない言い合いをしてると、ミツバがそーちゃんとエプロンをつけたまま食卓にきた。
何か言いたい事があるらしいのが雰囲気で分かって、沖田はコップに牛乳を注ぎながら促してみた。


「姉上、どうかしたんですかィ?」

「あ、あのね…。今日の夕方お出かけしたくて…」

「? 良いですよ?なんか適当に出前頼むし」

「えぇ、それで帰って来るのが次の日の夕方なんだけどね…、」

「……」


姉も子どもじゃないし弟が口出しするような事でもない。ただ沖田は勘が良かった。昨日たまたま近藤と土方の会話を聞いて思い出す。

『近藤さん、明日明後日ちょっと用事があるから部活休んで良いか?』

『トシが珍しいなぁ。分かった!』


線と線が繋がりピンときた。朝から気分悪くなる思考回路にうんざりする。
大方プチ旅行といった所だろうか。

「良いなぁ旅行アルか?」


もぐもぐとトーストを頬張りながら神楽は訊ね、お土産を買ってくるというミツバに満面の笑みを見せた。


「んじゃ今日は神楽様が夕ご飯作ってやるネ!」

「まぁ、そーちゃんをお願いね神楽ちゃん」

「えー…」

「まかせるアル!あ、トシ兄にも手料理振る舞いたいんだけど今日来れるかなぁ…」


ピシリと固まる沖田姉弟。気まずい雰囲気が場を包む。
それを最初に破ったのは沖田だった。


「やだ」

「えーなんでヨー」

「折角作ったってどうせマヨネーズだらけにされるぜィ。それに失敗してダークマターができて好感度が下がるのが目に見えてまさァ。って事でなし」


ぶーと口を膨らまし拗ねてしまった神楽と、秘密を隠せた安心からかほっと胸をなで下ろしているミツバ。沖田は溜め息を小さく吐いた。





***



「ハンバーグ作るネ!」

「手伝おうか?つか手伝わせて」


自分の為に。
頼んではみたものの神楽は頑なに一人で作ると聞かなかった。沖田はもしもの時の為にピザ屋と蕎麦屋、ラーメン等の出前用の広告を用意した。

だがそれは沖田の杞憂で終わる事になった。

ソファに横になりジャンプを読んでいると神楽の得意げな声が聞こえてきた。


「そーごー!出来たアルよー!」

「はいはい、俺今日蕎麦食べたい気分」

「何言ってるネ。今日はハンバーグって言っただロ」


エプロンと顔を汚しまくって神楽は腰に両手をあてて沖田を睨み付けた。神楽の自信に満ちた顔を見る度沖田の不安は比例して高まっていく。


「ほら、見てヨ!おいしそうでしょ?」


恐る恐る食卓に目をやると沖田は驚いた。絶対暗黒物質が出来上がってると思っていたのにテーブルに並べてあったのは形はイマイチだが案外まともなハンバーグ。レタスが添えられており、ご飯・味噌汁のセットメニュー。


「…普通に食えそう」

「当たり前ネ!ミツバ姉から修行したアル!昨日お料理ノートまとめてたから予習も完璧アル」


それが寝不足の理由らしい。

早く食べて!と目をキラキラして言う神楽に促され、自分の箸が用意されてるハンバーグの前に着席し、いただきますと挨拶をして一口口に含んだ。


「どう?どう?おいしい?」

「ん…、普通」

「んだとォォ!!」


とは言ったものの沖田は驚いていた。ハンバーグも、味噌汁も姉の作ったものと変わらない味だったから。


「……まぁ、不味くはねぇな」

「お前は素直に褒めるって事はできないアルか?」


既に完食をしていた神楽は呆れたような声で溜め息をついた。


「姉上の味に似てる」

「うん。料理はミツバ姉に教えてもらってるからナ。家庭の味って普通マミーに教えてもらうもんだけどネ」


(そうか…チャイナは、)


「私の家庭の味は沖田家の味アル!」

にこっと笑う神楽を見て沖田は心の隅で褒めてやっても良いかなと思った。
本当に少しだけ。


「チャイ…「私が結婚して子ども生まれたらその子にも沖田家の味を教えるアル!あ、その時の旦那様はお前みたいな奴じゃなくて美味しいって言ってくれる人が良いアルな〜」


…撤回。あまりにも生意気な面で言うもんだから絶対褒めてなんてやるもんかと決意する。


「勝手に沖田家の味をチェーン展開すんじゃねぇや」

「えー、だってミツバ姉もいつかはお嫁に行っちゃうアルよ?そしたら本家の味も何もなくなっちゃうアル」


それは今の居心地の良い環境が崩れていくという事。
ガキだガキだと思っていた神楽だって少しずつ大人になっていく。向かい合って食卓を並べてる今だって。


『お願いしてみて』


昨夜の姉の言葉が耳の鼓膜で響く。

お願いはしない。絶対に。
ただ、妥協だったらしてやってもいいと思った。



「…姉上の味は俺のもんでィ。土方にだって……他の野郎にだってぜってぇ食わせねェ」

「ぷぷっ。とんだシスコンアルな」



そう、今は歪なハンバーグを食べる事に集中しよう。
早く食べないと前の涎を垂らして狙っている肉食動物が俺のハンバーグを丸呑みしてしまいそうだ。







これシリーズ化しちゃおうか…。お兄ちゃん位置の沖田書くの楽しい。




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