目障りな気持ち((ああ!消え失せろ!))
最初はただのいけ好かない奴だった
そいつの存在は日増しに俺の中で大きなものになっていって、不謹慎だけど抱きたいと思った事もある。
ただ男所帯の中にいるから女なら誰でも良いというように性欲が爆発したという訳ではない。
……多分。
アイツの細くて柔らかい髪に触れたい
アイツの真っ白でまるで雪みたいな躯を抱きしめたい
思い始めたのはいつからだろうか…
「山崎…俺最近ムラムラするんでさァ」
「えっ!……あぶしっ!!」
瞬時に両手で胸の辺りを隠す山崎に無条件でイラッとしたから、一発鉄拳をくれてやった。
「そこまで見境なくねぇよ」
「…いででで、殴るなら言って下さいよ〜…あれ?それも駄目か」
山崎には間違ってもムラムラなんかしねぇ。俺の全ての誇りに懸けて。
この名前を付けにくい感情は18年間生きてきたけど初めて味わうものだと思う。
18歳なんて性欲多感な時期だからただヤりたいだけかと思ったがどうやら違うらしい。
男の欲を吐き出す為に存在する遊郭にも行く気にもならず、人間の三大欲求だけではない他の気持ちも入り混じっているようだった。
――…なんだこれ?
でも居心地が悪いという物ではないし、放っておく事にした。
「あ、税金泥棒アル」
土方の目を盗み、スヤスヤと公園のベンチで惰眠を貪っている時だった。
最近の不眠の原因となっている人物の登場に分かりやすい位あからさまに反応してしまった。幸いアイマスクをしてる為にこちらの表情は分からないだろう。
ちょこんと俺の隣に座ったのが気配で感じ取れた。この臭いからすると酢昆布を食べてんな…。
ゴソゴソ
「………!?」
なんか隊服のポケットに入れやがった。
え?なになに?なんだこれ?
「寝てるならつまんないネ」
そう言うと何をしに来たのか公園を出て行ってしまった。チャイナの気配が無くなってからポケットに入れていった物を直ぐに確かめた。
「…ゴミ」
そこにあったのは酢昆布が入ってた空箱。俺のポケットはゴミ箱じゃねぇんだぞ。あのクソガキ、俺の一瞬のときめき返しやがれ。
異様にテンションが下がり、寝る気もどっかに飛んでいってしまった。
これまでのチャイナに対するモヤモヤも一気に無にできそうだ。手の中のぐちゃぐちゃに潰れた赤い箱の形をなんとなく直してみる。
(……?)
箱の中に何か書いてる。まさか今時の酢昆布には当たりハズレでも用意されてるのか?もし当たりだったら本人の目の前で嘲笑いながら食べてやろう。絶対悔しがるだろうな。
空に向けて箱の中を覗いてみると、その中に書いてあったのは当たりでもなく、ましてやハズレでも無かった。
「はっ、…上等でィ」
それは今の俺を満足させるのには十分過ぎる物で、中にある気持ち悪い物を払拭してくれた。
つまりは悩んだら初心に帰れという事か
まだ近くを歩いているかもしれない。それとも白いでっかい犬に乗ってもう万事屋に戻ってしまったか。
ベンチに置いてある刀を腰に差し、足早に公園を出る。
真選組の隊服を着て全速力で駆ける沖田を見て、歩行者は何事かと振り返るが気にしない。まさか誰も一人の少女を追い掛けているとは思いもしないだろう。
―やっぱり万事屋に帰っちまったのか?
(あ、)
辺りを見渡すと番傘が一人で歩いている奇怪な姿があった。目を凝らして見ると細っこい足が2本あった。
「チャイナぁ」
「む、サド。さっきまでサボってたのに起きたアルか?」
「生憎起きてたんでさァ」
「狸寝入りかヨ。趣味悪いアル」
ムスッとしながらもチャイナは足を止めてくれた。早く帰ろうと隣でキャンキャン鳴く白いでっかい犬に「先に戻ってて」と言いながら頭を二回撫でてやる。するとそれを合図に白いでっかい犬は一人で万事屋の方に帰ってった。
「お前と絡むと長くなるからナ。定春を待たせるのは可哀想アル」
「ふーん。お前から絡んできたようなもんなのになァ?」
「…お前、あれ気付いたアルか」
―あれ
酢昆布の箱に書かれていたのは、可愛らしい恋文や艶のある誘い文句等ではなかった。
「"果たし状"なんて書かれちゃあ受けて立たなきゃねィ。つうか果たし状の"果"の字が"菓"ってなってる」
「えっ!その字銀ちゃんに教えてもらったのに…」
(部下が馬鹿だとその上司もそうなんだ)
自分にも降り懸かってくるだろう言葉を胸の中で留めておいた。
「なんか最近そわそわするネ」
「そわそわ?」
「うん。お前の事考えると気持ち悪い」
喜怒哀楽には当てはまらない微妙な表情で俯いている神楽を見て、山崎の時自分もこんな顔をしていたのかと沖田は思った。
自分もチャイナも分からないこの気持ち。どんな物かを知る為には消去法しかないのかもしれない。
まずはいつも通りに決闘をしてみよう。それでも答えが見つからなかったらまた別なやり方で探せば良い。
右手を刀の柄につけ、相手もご自慢の傘に力を込めたのを確認する。
「今日こそ負かしてやりまさァ」
「ふん、それはこっちの台詞ネ」
タイミングなんて数えなくても互いに分かっている。
相手が一瞬息を殺したが刹那―
戦闘開始
二人がこの気持ちを知るのはまだ先の話し…。
目障りな気持ち((ああ!消え失せろ!))
(でも居心地が良いからもう少し)
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