大江戸事件ファイル3
大江戸事件ファイル
03.土方十四郎
「…お前は何を連れて来てんだ?」
土方の目の前には万事屋のチャイナ娘と昔から知っている小憎たらしい部下と白髪頭の天然パーマがいた。
だが明らかにおかしい所がある。
「ちっちゃくね?」
「ちっちぇーよ」
そう。天パを除いた2名が何時もの目線より低い位置にいた。
できればここは見ないフリして自室に閉じこもりたい衝動にかられたが、ピタリと少女が脚に抱きついてきて動く事すら出来ずにいた。
「おい、万事屋。詳しく話し聞かせてもらう。奥に入れ」
「ま、こっちもそのつもりで来たんだけどね」
「トシおじちゃん!あそぼ」
未だ脚にすり寄っている女の子が土方を見上げて甘えてきた。子供の扱い方が分からないので、無言で頭をわしゃわしゃと掻いてあげると満足したのかくすぐったそうな顔をして離れていった。
「ヒュー、多串君のロリコーン」
「ひゅー、死ね、ひじかたさんのへんたーい」
「黙れ。つーかコイツ絶対総悟だろ。なんか腹立つ。絶対総悟だ」
ちびっ子達には庭で遊んでるように言い聞かせ、銀時だけが奥の部屋に通された。沖田達はまだ帰っておらず、近藤は相合い傘の事件の調査をしつつ、お妙に会いに行ってくると言って屯所を留守にしていた。
「…でだ、あいつらが苦情があった落書き事件の犯人だと」
「ああ。だって描いてたし」
「……一つ聞いて良いか?」
「ん?」
「あのガキ共は何だ?」
犯人が分かったからと言って『はい見つかって良かったですね〜』では収まりそうにないこの事件。
身元が分からないんじゃ親に注意をする事もできない。
「あ」
「な、なんだ」
「まだ何も聞いてねぇや」
「はぁ!?じゃあなんで屯所に連れてきたんだよ!?何か分かったからじゃねぇのか?」
「いやー、なぜかあの男の子の顔見て真選組に関係あると思ったんだよなぁ」
「俺も女の子の顔見てなんだがお前等に関係あると思った」
・・・
急に訪れた沈黙。
銀時と土方はだらだらと汗を流し始めた。サウナでは無いというのに異常なまでの発汗は不安がよぎった証拠である。
「…まさか総悟の隠し子?」
「イヤイヤイヤイヤ!冷静になろう多串君。沖田君の歳でこんなおっきい子供はいないだろ!」
「だったらなんであんなにうり二つなんだよ!」
「たまたまだろ」
「たまたまで同じ顔の奴が二人も現れるかァァ!」
考えれば考えるほど深まる謎
隠し子説も無理がある。
「本人達に聞いた方早くね?」
「……」
*
「つー事でお前達は何なんだ」
子供等を二人仲良く並ばせ、手っ取り早く尋問を終わらせるように用件のみを述べた。
「名前は?親は?家はどこだ」
鬼の副長の質問攻めに普通の子供なら泣いてしまうだろう。だが、このふたりは違った。泣くどころか慣れっこのようにきょとんとしていた。
「あり?まだ名前言ってませんでした?」
「わたしはそらアル!で、おにいちゃんはしんごネ」
神楽と沖田ではないのか。最近は天人が持ち込んだ変な薬も多く出回っているから二人が縮んだという事も考えられた。"おにいちゃん"と言う事は兄妹らしい。
兄妹と言う事は沖田隠し子説も無きにしも非ず。そうなると妹が神楽にそっくりな事がひっかかる。
…まさか、ねぇ?
「ふーん、しんごとそらねぇ。親はどうしたんだ?」
「…いるっちゃぁいるけど、いないっちゃぁいない」
「え、どっち?」
「かくかくしかじかアル」
漫画じゃねぇんだから分かんねーよ!!と
小さい子に怒鳴るという大人としては最低な光景だが、今は致し方ない。
「…あんま触れたくなかったんだがどうもこれを聞かないと先には進まねぇ気がする」
「ま、まさか多串君…あれを聞いちゃうのか」
「お前こそ思ってたろ?……一つの"可能性"を…」
吸っていた煙草を灰皿に擦り付け、ギロッと目つきの悪い視線を投げつけた。
特に怯える事はせず、はたまた目を逸らす事もないこの可愛くない反応。土方はこういう子どもを過去に一回見たことがあった。…まぁ、今も十分可愛くないガキだか。
「お前等…姓は?」
――……
―――………
「沖田隊長…」
手分けして聞き込み調査をしていた沖田と山崎は浮かび上がる犯人像に困惑していた。
容姿は自分達に似ていたとしても…
「子どもだったって言う人もいますよ?なんなんですかね…」
「案外既に土方さんとかが捕まえてたりな…」
「あ、言ってるそばから」
前方から真っ黒の塊と白い頭の男が歩いてきた。
この二人が一緒に歩いて来るなんて明日はマヨネーズが降ってくるな…と思っていると土方の腹に抱きついているものがいた。
なんだあれ?抱っこちゃん人形?
「旦那ぁ、ついでに土方!」
「ついでって何だコラァ!」
「ちょ、副長!隊長もこんな所で止めてくださいよ!」
「いいぞーやれー」
「旦那も煽らないで下さい!」
抜刀しかけてる二人を山崎が必死に止めたが土方の不機嫌は治まらず山崎は何か土方の意識を逸らすものはないかと辺りを見回し、大きなツッコミ所をみつけた。
「あ、あの副長!何かくっついてますよ!子ども…?」
「あ?あぁ…、オイ、離れろ」
「……あ」
「…ちっちゃいチャイナだ」
ピョコンと顔を出したのは普段の桜色というよりも黄丹寄りの髪をしたお団子頭。
彼女の魅力でもある可憐さも持ち合わせており10人居れば全員が可愛いという感想を持つであろう少女。
「あ!パピー!!」
少女に"パピー"と称され、満面の笑みで抱きつかれた男は今の状況を把握する為に頭をフル回転させていた。
―…事態を把握するまであと10秒
つづく
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