[携帯モード] [URL送信]
・隣りの星まで数センチ(零→涯)





 お前と俺とは違うんだよ。
 自分のヒステリックな声が夜の公園に響いて余計にムカついた。叩きつけた現実に、目の前の零は鳩が豆鉄砲を喰らったような間抜け面をした。
 おつむも顔も抜群で王子様だとか騒がれるこの男は、どこで道を誤ったか俺に興味をもってしまったらしい。ちょろちょろされて甚だしく不愉快だ。理由を聞いても赤くなったり青くなったりして口ごもるし、イラつくことこの上なしだ。

 零の住む世界と俺の世界はまるで違う。それはきっと生まれ落ちた時から絶望的な、それこそ何億光年という距離が存在していてきっと死ぬまで変わらない。本来交差する事すら無かっただろうに、創造者はどうして気紛れだ。
 そうまるで他の星のヒト。宇宙人だ。
SFは好みじゃないが、この表現が一番しっくりくるのだ。
言葉なんか一言も通じていないのに。普通の人間は当然、いくら天才のお前でも俺の世界を理解出来ることなんか万に一つも無いっていうのに。
それなのになんでお前は関わろとする。無駄な努力だ。
そんな顔して俺の抱えた物を見せたら、お前も逃げて行くんだろう?
ふざけろ。

 俺はぎりりと奥歯を噛み締め吐き捨てた。
「早く母星に帰れっ…!」
「うええ?ちょ、母星??なにそれ詳しくお願いします…!」
「とっとと消えろ異星人っ…!」
俺は言葉が少ない。時として物凄く突拍子の無い事を呟いてしまう。現に今も零は目を白黒させている。特に零と居ると調子が狂いまくるのでよくこうなる。
歯痒くて腹が立って声が詰まる。胸の辺りがぐしゃぐしゃに絡まって苦しい。
そうこうしていたら零は高速で答えを発見したのだろう。あわあわと情け無い表情が普段の利発なそれに戻った。夜なのに不思議と眩しいあの笑顔を浮かべる。
無防備な左手を攫われる。
何を言おうが無駄だぜ、と目で訴えた。
が、零の台詞は斜め上どころかさらにその上、大気圏をぶち破るものだった。


 「異星人でも、手ぇ繋いだら暖ったかいのは分かるよね」


 「…はぁ?」
「だから今はまだそれでいいんだよ、きっと」
零はそう続けて阿呆のように口を開いた俺の手をさらに強く握った。
「時間をかけて交信しよう。こういうのは焦るからいけないんだよ涯くん。心配無いよ!時間ならまだまだあるからね!」
「ばっ…!何言っ……」
零は胸を張ってさすが俺!という顔をした。キモい。
なんだこいつ…やっぱり訳解らん……。
本当なんなんだろう。
時間ならあるだと?
いつまで待つ気なんだよ。
こいつ馬鹿だ。

 そんな様子を見たら急に戦意のようなものが萎んでしまった。強張った体から一気に力が抜ける。肺中の酸素を吐き出してせめてもの悪態をつく。
「…馬鹿じゃねぇの」
「うんそうだね、多分馬鹿だ」
零はまた笑った。
耳が燃えるように熱いのは気のせいだろう。
その頭上の夜空は快晴だ。
俺と宇宙人のコンタクトは当分続くらしい。





   隣りのまで数センチ



異星人間の交流は案外容易なものなのです





常識人なんだけどテンパって電波ちゃん発言する零と無自覚電波ちゃんの涯のつもり。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!