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・悪魔の恋人、かく語りき。(森銀)



 某作家曰わく、悪魔は美しい容姿で、物腰はどこまでも上品、丁寧に手入れされた爪はピカピカと輝いて、まるで英国紳士のようだ、と。そして抗えぬ魅力の持ち主だ、と。
 といっても森田はイギリス人(それも紳士なイギリス人、だ)など会ったことがないので銀二が英国紳士かどうかは判断しかねる。
 しかし銀二は、こんなにも心を惑わし、惹きつけ、跪かせ、溺れさせる。
 まったく悪魔そのものなのだ。




 ベッドサイドの暖色系の灯りが、扇情的に銀二の痩せた体を浮かび上がらせる。
 銀二の肌を弄る手は止まらない。シャツをはだけさせ、胸元に掌を滑らせる。銀二の艶めいた荒い呼吸音がさらに森田を煽らせた。首筋に吸い付けば、銀二ご愛用の香水が森田の脳を揺さぶる。
銀二に頭を掻き抱かれ、細い指で撫で回される。
もっと触ってよ銀さん。
ああ畜生。くらくらする。
 「銀さんが悪いよ」
うわ言めいた非難を口の端の登らせれば、銀二は鼻にかかった忍び笑いを返した。何が可笑しいのだ、と銀二の尖った顎に柔らかく歯を立てる。
「俺のせいか」
「そうですよ、あんたはいつも俺をおかしくする」
「フフ、」
 最高に可愛い男だなお前は、と耳たぶに吹き込まれ背筋が震えた。森田は無意識に甘ったるく名前を呼んでいた。


 某作家曰わく悪魔は美しい容姿で、物腰はどこまでも上品、丁寧に手入れされた爪はピカピカと輝いて、まるで英国紳士のようだ、と。そして抗えぬ魅力の持ち主だ、と。
 その悪魔なら俺の目の前に居る。
 俺はこの人から逃れられないと知った。一度は血なまぐさい世界に底無しの恐怖を垣間見て、情けなくも逃げ出した。銀二から逃げた。
 だけど、どうだ?
 その日から銀二に教えられた、眩むような金の魅力、焦がれて焦がれて体が千切れそうな恋情と、その先にある最高のベッドタイム。そしてあれ程の人物に他でもない自分を必要とされる、あの体の芯がひたすら熱くなる感覚。
 平井銀二を片時も忘れられなかった。
 どうにかなりそうだった。――否、もうどうにかなっているのだ。
 そうでなかったら、この体が焼き切れそうな感情は、切なさに身悶える劣情はなんだ。もう一度、人でなしの道を引き戻らせる程に銀二は捕らえて離さない。
 狂っている。間違いなく、この男に。
 悪魔に魂を捧げたあの日から。


 「銀さん、」
股間に埋まった銀髪を弱々しく引っ張る。絶え間なく与えられる、とろ火で炙られるような快感に森田は焦れた。愛情が籠もった愛撫、その“お返し”がしたい。返事の変わりに鈴口に舌をえぐり込まされる。
 「っく、」
「いいからお利口さんにしてな」
つやつやとよく手入れの行き届いた爪が、カウパーやら唾液やらで濡れた顎を拭う。形良い涼しい目元が弧を描く。
 「頭ぶっ飛ぶほどよくしてやる」
 ああ。お手上げだ。
森田は小さく笑って、銀髪を有りっ丈の想いを込めて梳いた。
「銀さん、愛してます」
「俺もさ」
 そんなうっとりとした眼差しで囁くなんて。
あなたって人は、本当に狡い。



 悪魔に見初められる男なんかそうそう居ないだろう?
 俺は随分ラッキーらしいね、どうも。







 魔の人、かくりき。










某作家はホラーの大御所スティーヴン・キング。はっきりそうは言ってないけど、キングの作品に出てくる悪魔は皆さん惚れ惚れするような魅力的な紳士です。ニードフル・シングスのゴーントさんとか本気抱いて欲しい。




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あきゅろす。
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