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・背中の友だち(原ひろ)




久しぶり、元気だった?
ひろゆきは原田の裸の背中に後ろから抱きつきながら、そこに飼われた龍に話す。
龍はギョロリと大きな目を剥いてひろゆきを睨み付けた。
携帯を弄っていた原田が首だけねじ曲げてこちらを見た。
パチンと携帯が閉じられる。
「なにしとん」
「お喋り。この子と」
「…どの子や」
「だからこの子ですよ」
原田の彫り物をつつく。
「なんや、刺青に話しかけとったんか。おかしなやっちゃ」
原田が鼻を鳴らして小馬鹿にする。むっとしたひろゆきは原田の肩をあぐあぐと噛んだ。
止めてや痛いがな、笑いながら原田が言う。普段のドスの効いた威圧的かつ恐ろしげなそれではない。耳に気持ちいい柔らかくまあるい声音だった。
「原田さん、」
「なんや」
背中、よう見せて、とひろゆきが西の言葉を真似すると、原田は下手くそと笑った。
「せやけどひろが関西弁使こてると燃えるわ、なんでやろ」
「バカですか?」
「…すぅぐこれやもんなぁ」
ひろゆきが冷たく言い放つと(勿論本心じゃない。照れ隠しだ。)、原田はなにやら口の中でぼやく。やんわりひろゆきの腕をほどくと、うつ伏せに寝転ぶ。
ひろゆきはまじまじと見つめた。
原田の彫り物は火焔一匹龍。と、いうらしい。
名前の通り火焔をまとった上り龍である。背中から太ももにかけてびっしりと墨が入っている。
いつ見ても素晴らしい。
ほうとため息をつく。
こうして言葉が消えてしまうくらい刺青が美しいのはきっと、原田の計り知れない覚悟や誇り、大勢の組員達の命を背負っているからだ。赤木や天とは違う、けれど惚れ惚れするほど勇敢な背中だ。
肩甲骨あたりを撫でるとくすぐったかったのか、原田の背がぴくりと動いた。筋肉の動きと一緒に龍もまたうねる。
久しぶり、元気だった?
ご主人の背中でいい子にしてた?
ひろゆきが胸の内で尋ねても、やはり龍は黙ったまま、ただ睨み上げてくるだけだ。
お前狡いよなぁ。
四六時中、文字通り背中に張り付いてるんだもんな。
こっちは心配し通しなんだぜ?

関西一二を争う暴力団、その総元締めと恋仲であること。決してに生半可な腹づもりではいない。万一原田に何か有った時の身の振り方も考えてある。原田もその辺りはあえて口にしないが、ひろゆきを信頼しているらしい。
墨の入った背中を見せる、という行為は大変な事なのだ。そしてその逆も、きっと。
恐らくひろゆきと原田は普通の恋人同士よりも余程強く、揺るぎない結び付いているだろう。
それでも、だ。原田との物理的な距離は時にひろゆきを酷く不安定にする。今すぐ大阪へすっ飛んで行って、原田に無茶苦茶に愛されたいなどと願ってしまう。

原田さんは、どうなのかな。
不安に思うのかな。
だから原田の背中を住処にする龍が少し、羨ましい。
龍は相変わらず黙っている。
しかし恐ろしげに見開かれた両目は雄弁だった。
ええやろ。俺のもんやぞ。
ひろゆきは再び口をへの字に歪める。
得意気な顔が小憎らしくなってぺちりと背中を叩いた。







    背中の友だち。








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