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・ディクディクに捧ぐ。(零涯)




工藤涯が他人に触れたいなどと思ったのは、本当に生まれて初めての事だった。
とにかく無性に独りきりで居たかった。誰にも自分を知って欲しく無かったし、誰も知りたく無かった。
独り。
完全なる孤立が欲しかった。
他人との生ぬるい馴れ合い程虫唾が走るものは無かったのに。
それなのに、今、自分は目の前のそれはそれは美しい顔をした“他人”に触れたいと、息を上手に吸えないほどに切望している。
そこに明確な理由は見つからない。しかし気分が悪いわけでは無いのだ。少し前の自分なら、不明瞭な事が何よりも許せないはずだったのに。
しつこくまとわりつかれ、迷惑だ鬱陶しいと思い、尚且つかなり酷い扱いをしていたにも関わらず。いつの間にか、宇海零はスルリと涯の中に入り込んで居た。
不思議な存在だった。

作り物のように長く濃い睫毛がぱちりぱちりと上下する。
「なぁに?」
耳朶をふんわりとした甘い声がくすぐる。涯の薄っぺらな学生服に包まれた背中は、電車ががたごとと通り過ぎる音を聞いた。
鈍行しか停まらない小さな駅、その人気の無い駐輪場にも夜は着実にやってきている。零が羽織っている“日本一難しい男子校”の制服であるブレザーと同じ色をした夜が。
別に。
そう答えたぶっきらぼうな口振りに我ながら呆れた。酷いものだ。
それなのに零は目を細め、涯の冷えた耳を柔らかく引っ張った。そうして火傷の跡を親指の腹でなぞる。
反射的に肩が揺れた。
「ごめん、嫌だった?」
零が不安に声を揺らしながら尋ねる。
別に、と言いかけて慌てて喉の奥に押し込んだ。自分は心に浮かんだ感情をそのまま表情や言葉にする事がどうも下手くそだ。嫌じゃない、そうじゃないんだ。伝えたくても、口も表情も固いままだ。だから、なんとかゆるく首を横に振った。
「そう?じゃ触ってていい?」
ぎこちなく顎を少し引いた。
零が両手で頬を包み、鼻筋に触れ、うっとりとした表情を浮かべた。
「涯くんは綺麗に出来てるね」
返す言葉が見つからない。綺麗に出来ているのは誰が見ても零だろう。
零がくるくると喉を鳴らすように笑った。
瞬間。急激に肺一杯に温かな何かが満たされる。
堪らなく、零が必要と感じた。
そっと手を伸ばす。
零の睫毛に触れた。
零の目が見開く。
そうして頬骨に指先を滑らした。零に触れる指先がとても熱い気がした。
「びっ…くりしたぁ…!」
涯くんからオレに触るなんて、初めてだ。
零は弾んだ声を上げてガバリと抱き付いてきた。今更ながら、自分はもしかしたらとても恥ずかしい事をしたんじゃないかと思った。
耳が堪らなく熱い。
らしくない。
小さく舌打ちをした。
「ね。涯くん、もっとオレに触ってよ」
至近距離で見つめてくる零の睫毛は矢張り長く、濃い。まばたきをする度音がしそうな程に。
嫌?、と尋ねる熱っぽい視線に、涯は気恥ずかしさを覚え目をそらした。
おずおずと、自分の顔を包む手に自分の手を重ねた。










  ディクディクにぐ。








甘あぁぁあぁあ〜〜いいいい!
ディクディクは小鹿に角をはやしたような牛科の動物。睫毛が長くて可愛い。

零のあの睫毛…っ!一番ボリュームあるつけま並…っ!





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あきゅろす。
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