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・ハートを打ちのめせ(安平)
仕事の帰り道だった。
「ガキに興味ねぇ。悪いな」
あっさりと、きっぱりと。
煙と一緒に吐き出された台詞に平山幸雄は頭を殴られた気分になった。
ああそうですか?、残念、なんて小首を傾げて色っぽく笑んでみせようとするも、幸雄の目論見は失敗した。頭より体が先に反応した。くらくらと視界が揺れ、あっという間に世界が熱い水で滲む。
頭上から盛大なため息が聞こえた。
「泣くな馬鹿…!」
「だっ、だって…」
「俺が…悪いみてぇだろうが」
安岡の苛ついた口調にまた涙が込み上げてくる。泣いたら駄目だ、もっとうっとうしいと思われてしまう。そう思うのに、塩辛い水は止まらない。スーツの袖で拭っても拭っても溢れ出る。
幸雄は尋ねた。
「なん、で…駄目なんですかっ…」
「だからガキは趣味じゃねぇの!俺は!」
「っ俺ガキじゃないですもん…大人っす!酒も煙草も、」
「ガキだよ」
「金だって、自分で、」
「子供だ」
「…じゃあ大人ってなんなんですか」
再び安岡はため息をついた。
幸雄は安岡が好きだ。
たまらず下を向く。安岡のくたびれた革靴をただ見つめる。
安岡の言う通り自分がガキだとして、それでもガキなりに解る。
真摯な気持ちで、安岡を好いている。
これは恋だ。
「だいたいなぁ、大人ってなんですかって聞くこと自体がもう子供じゃねぇか」
「……」
幸雄は必死で歯を食いしばった。そうでもしないと嗚咽が零れそうだ。にべもなく拒否されても食い下がる自分が嫌になる。みっともない。恥ずかしい。そう思いながらも安岡を求める浅ましさに喉が詰まる。
安岡の爪先に大して短くもなっていない煙草が落ちる。小さなオレンジ色の光は踏まれ、潰された。
何故か余計に泣けてきた。
「お前は勘違いしてるだけさ。俺の事なんか好いちゃいない」
安岡が妙に優しい声音で言う。
違う、と首をぶんぶん横に振った。
「……勘違いても、信じてれば、本当になるんです」
酷い屁理屈だ。
鼻の奥がつんと痛んだ。
安岡が三度、大きなため息をついた。






  ハートを打ちのめせ。



ウザい幸雄。
本当は安岡→←平山なんだよ安岡さん「こんなおっさんが好きとかねぇだろ」って思ってんだよ。
でも平山の熱意に陥落しかけてる。

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