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・愛かもしれない。(坊カイ)

※ちょっと未来の話し。
※坊ちゃんがカイジにべた惚れ






「面白い」、その一言をコイツから聞きたいが為に原稿用紙と戦っているのかもしれない。




「何で内臓系ばっか頼む?」
「カイジもタン塩ばっか食うなよ」
 鉄板がじゅうじゅう良い音を立てる。
 鉄板。肉。焼ける。簡単な連想ゲーム。
「誘っといてなんだけどさ」
「あ?」
「利根川の焼き土下座ナマで見たのによく食えるね…コレ」
 箸の先を生の部分と焼けた部分とでまだらになったロースへ向ける。カイジの視軸が一瞬ぶれ、また俺に戻る。
「それとこれ別じゃね?」
「神経太ましくなったなぁ」
 ナイーブな俺は少しげんなりして背もたれに体重を預けた。カルビに食いつきながらにんまりされる。肉が旨いのか得意げなのかは分からない。
「てか締め切り平気なのか?」
「…………」
「ちょ…良いのかよ飲んでて」
 痛い所を容赦なく指摘された。俯きミノを箸先でつついく事に集中していたら呆れた声。ムッとした。
「良いんだよ。書けないのに部屋に居ても無意味じゃん」
「ふぅん、そういうもんか?」
「直木賞候補のプレッシャーなんか分かんねぇよなぁ」
 カイジがけとけと笑う。
 いつも不満そうにぶすくれた顔してるけど、この人笑うと意外に可愛いんだよな。
 あと結構いいケツと脚してんだけど。
 そう俺たちは恋人だ。多分。
 ただし、かなり特殊な。



「お前の話しって全っ然つまらん」
 いつだか文芸書にヤクザ物の短編が乗って意気揚々と見せたら一蹴された。怖い顔で。
 あまりにも全力で否定されたので唖然とした。
「いや…つまんないことねぇっしょ。だって俺大型新人よ?」
「つまらん」
「な…え?なんで??てかど、どこが???」
「全部」
「ぜんっ…?!」
「だっておめーの話しおかしいってコレ!自己完結…!自己完結の極み…!こんなんただのオナニープレイだろうがっ」
「オナニープレイ…だとっ…?!」
「そうだよ作家なんか辞めてチンコしこってろ馬鹿!!」
「うるっせぇえ!畜生作家なんてなぁ!みんなオナニストなんだよ!!」

 お分かり頂けただろうか?
 俺の恋人は一ミリだって俺の作品を認めてくれていないのだ。イコール俺の人間性も認めていない、ということになる。
 それも致し方ない。そもそもベースとなる物が世間一般的な甘い思い出ではなく、俺たちの場合目を覆いたくなるような酷い歴史なのだから。
 殴って殴られて、双方の言い分に「反吐が出る!」と怒鳴り合って、でもその癖、その気持ちが嫌になる程分かるのだ。しかもそれは地球上で俺にはカイジしか、カイジには俺しか分からない感情だ。
 つまり俺の書く話しへのあの態度だって、そこから来ている。

 だからこそ、反発し合いながら寄り添うことを止めないのだろう。
 激しい争いのたびそれを知って、気持ちいいことや楽しいことをするとちょっと忘れる。
 俺を受け止められるのはカイジしか居ない。情けないがカイジに居なくなられたら俺は絶対駄目になる。
 でも、カイジは俺が居なくとも元気にしたたかに生きていける。多分そこが決定的な違い、“リアル”に叩きのめされても立ち上がってきたタフさ。
 温室育ちの俺には到底かなわない。

 俺は文字を書くのが好きだけど、もしかしたらカイジに「面白い」の一言を言って欲しいが為に締め切りを律儀に守っているのかもしれない。
 そんなカイジの存在は俺のインスピレーションは掻き立てる言わばミューズ。
 お前が居なきゃ一字だって書けない、のかもしれない。


 そこまで考える事数十秒。
 なんと言うか、ううん正直俺キモいな。
 チラリとカイジを窺い見るとめっちゃ肉食ってた。美味そうに食うのな本当に。おい野菜も食えって!てか食う時髪くくるのは偉いけど、適当にやりすぎだろ!!
 そんなんなのに、呆れてんのに、しかし俺はむちゃくちゃ可愛いと思った。
 思えば俺は愛の言葉らしい言葉を言った事がない。なんだか無性に照れくさくて無理だった。
 でもフッと。今なら言える。気がした。
 今更かもしれないが、今どうしても言いたい。それこそ無性に。
 なにも焼き肉食ってる時に…とも思わないでもないが、まぁ人間そういうもんだ。
 それにしても肝心な所でキメる台詞が出てこない。おかしいな、原稿用紙の上で数々の名台詞を産んできたっていうのにさ。
 言うのと書くのじゃ勝手が違い過ぎる。やっぱり小説家っつー人種は妄想ばっかしてる暗い奴って訳だ。
「カイジ、」
 一つ咳払い。意を決して。




「俺さぁお前にべた惚れかも」




 だせぇな俺。うわっ、カイジはぁ?って顔してんじゃん。
 くるり、とデカい目がより見開いて俺を捕らえた。
 頼むからあんまり見ねーでくんねぇかな。
 ああ本当、スマートじゃない俺らしくない。
 この俺様が、ありえねー。


 今気づいたのかよ、と言わんばかりに、煙りの向こうでカイジは勝ち誇った笑みを浮かべている。










愛かもしれない。










坊カイは見る専門だったのにチャレンジしたらすらすら書けてびっくりした。








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