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・バラが咲いた。(村上と一条)
一条は美しい。
村上は改めて嘆息した。
形の良い目を飾る長い睫毛が影を落としている。
神経質そうな柳眉を寄せて一条が呼ぶ。村上。
「はい、」
「俺には力もない、才能もない、」
一条が指先で目印の辺りをなぞった。首を傾げた拍子に甘いバラの香りがした。
「あるのは人よりちょっとばかし綺麗な面だけさ」
村上。また呼ばれ返事をする。
「勝つために唯一の武器を最大限使って闘うのは、当然だろう?」
一条の必死な声に村上は頷いた。
「…ええ」
上等なスーツに包まれた肩は震えている。自分で自分を抱きしめる。白い指先に埋まった爪はつやつやとして、まるで桜貝のようだ。ああ一条はこんな所まで綺麗なのだなと村上はぼんやり思った。
一条は血を吐くように呟いた。
色を無くした頬に伝う、透明な。
「俺は間違ってなんか無い、だって勝つためには仕方無いんだから」
「ええ、」
「間違って、ない」
「店長、」
「こっち、見る、な!」
店長の両手に力が籠もる。
俺は店長の目元を手の平で覆った。温い水が手の平を濡らす。
そうして俺は目蓋を下ろす。
広がるのはただの闇。




      




(抱きしめるなんて、そんなおこがましい真似俺には出来ない。)










枕営業後の一条。



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