散文置き場(短編集)
なつまつり(漆+佐)
「漆黒様って七夕祭りってどうする?」
「そん時は俺地元に帰ってるよ」
「あぁ………そっか…………あっちもお祭だもんね」
「…………ぁ、」
漆黒はさらりと返事をしてからハッとした。
「お前、行きたかったのか?」
青臭いカップルのように、お祭りデートがしたいという誘いだったのなら申し訳ないことをしたと漆黒は顔をしかめた。
「違う違う、行こうよって意味じゃないから」
佐助は漆黒の表情から何を考えたか読み取り慌てて否定をする。
「ただ、どうなのかなーって思っただけで」
「そうか…………」
漆黒はホッとして髪を掻き上げた。
「でも…………行けるものなら一緒に行きたいよ」
「え、」
ぴたりと動きの止まった漆黒に佐助は苦笑いが零れた。
「誘ってるわけじゃないんだから気にしないでよ」
「い、や………まぁ、な」
約束をしていたわけでもないのに、予定があることにどこか後ろめたさを感じていた。
「俺仕事だし」
「な、んだ…………」
今度こそ漆黒は安堵した。
「………………ふふ」
「…………何だよ」
「いやー、漆黒様って可愛いよね」
「何がだ!」
分かりやすい漆黒の反応に、佐助は笑みが抑えきれずにいた。
「楽しんできてね」
「お前、はぐらかしたろ?ニヤニヤすんな!」
「えぇー、してないよ」
漆黒の不機嫌さが、一層佐助の顔を緩めるのだった。
「…………他の祭だったら………行くか?」
「え?」
「だからッ…………七夕祭りは無理だけど、お前が行きたいっていうなら、な」
笑われて悔しいと思いながらも漆黒は佐助の期待に応えようとした。
「うん…………行きたい」
「…………どうした?」
「え…………」
「顔が喜んでない」
佐助の表情が曇ったことを漆黒は見逃さなかった。
「んー…………」
「どうした」
「8月は忙しくてさぁ…………」
「繁忙期だもんなぁ」
「うん…………連休取れなかったし」
「じゃあ、暫くこっちに帰って来れんか」
佐助が俯いて言葉を紡ぐので、漆黒の声のトーンも下がる。
「うん…………」
仕方ないことだと分かっていても、伝えてしまうと淋しさが増す。
「なら、俺がそっち行くから時間作れよ?」
「えッ!?」
「え、ってなんだよ?お前が来れないなら俺が行くもんだろ?」
「い、や…………そんな」
佐助は一気に顔が熱くなる。
「漆黒様…………俺、別に祭じゃなくても漆黒様と一緒にいられるなら十分だよ」
「お、前ッ」
赤くなりながらも素直に愛情を伝える佐助以上に、恥ずかしくて漆黒まで赤くなった。
「2人きりなら手も繋げるしね」
「………………ッ!!」
そっと手を取る。
「漆黒様…………かわい……………」
「ッ………………」
ゆっくりと眼を細めながら佐助は顔を寄せる。
釣られてぎゅっと瞳を閉じた漆黒は
エアコンが効いた部屋でも汗が吹き出すのがよく分かった。
12.08.06
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リハビリを兼ねた夏の1コマ話。
思いっきり中の人ネタで失礼しました。
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