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明ける時まで(政+佐)






















『年が明ける瞬間、俺のこと思い出して』




電話での頼まれ事。
一瞬耳を疑った。



「何だそれは?急に重いこと言うな」

『重いって言わないでよー、ちゃんと意味があるんだから』

「何?」

『年が明ける時にしてたことが、その1年を表すことになるんだよ』

「そうなのか?」

『うん、だからラブラブな1年になるようにさ』

「なるか!」

『なろうよ!』



さらりと何てことを言うのだろうか。
恥ずかしくて声を荒げてしまった。



『でも約束だよー、俺はちゃんと考えるから』

「勝手にしろ」

『照れちゃって可愛い〜♪』

「照れてない!」



良いお年を、と電話を切った。





「知りたくなかった………」




そんなことを知ってしまったら、
意識してしまうのは確実だろう。


家族と過ごすから、ということで一緒にはいない。
それなのに、心に残った大きな存在感。



そして


刻一刻と時間が迫る。




「………く、そ………」



テレビを観ていても時計ばかりが気になってしまう。

このままでは思う壺だ。



「アイツめ………」



恨めしい。
こんなに、こんなに強く想ってしまうなんて。


テレビからは二年詣りを伝えるアナウンサーの声。
そして、静かな除夜の鐘。

ざわつく胸の内とは逆の静寂。



「………俺が片想いしてるみたいだろうが」



こんな1年を過ごすのかと思えば気が滅入る。


脳裏に浮かぶのは

人懐っこい笑顔
唇を尖らせて拗ねる顔
たまに見せる真剣な顔
欲情の熱に浮かされた顔………

自分の名を呼ぶその姿



「……………佐助………」



思わず呼び返してしまった。

静寂が余計に空しさを煽る。



「くそ………」



耐えられず携帯を触る。
ほんの少しでいい、
声を聞かせて欲しい

お前の事なんか思い出さないからな、
そんな憎まれ口を叩かせてくれ。




「………繋がった………」



通信制限に入っているかと思って掛けた電話。
コール音が続く。



『もしもし?』

「まだ起きてたか?」

『当たり前じゃん!どうしたの?』

「いや………」



憎らしい。

声を聞いて安堵した。
それと同時に、恋しくなった。


当然そんなことは伝えない。



「俺、もう寝るから早めに新年の挨拶」

『あとちょっとじゃん!もう少し頑張ろうよ』

「もういい」

『俺の事考えてよ〜』

「そんなの知るか」



苦しい程考えている



『俺の事、好き?』

「嫌いだ」

『俺は好きだよ、今すぐ会いたいくらい』



さらりと、聞きたくない言葉。
余計に想いが募ってしまう。



「会えないくせによく言うよ」

『ねぇ………会いに行ったら会ってくれる?』

「別に………」

『俺の事、抱き締めてくれる?』

「………分からん」

『キスしよう?』

「………ん………」



愛しい



「………お前に会いたい」




敗けだ。
これが本心。




『よっし!待ってました!』

「は………?」



意味不明な気合いの入った声。
そして、同時に響いた玄関チャイム。



「おま………え………」

『開けて開けて〜』



静寂は一気に吹き飛ぶ。
立ち上がって玄関へ


ドアを開けるとそこには、
寒さで涙目なのか、鼻を赤くしながら立つ男。



「来ちゃった」

「来ちゃったって………家族と、」

「即行そば食べて家出てきた」

「いつから、」

「電話もらう少し前」



動揺して、1つ1つ理解していこうとしているのに、
佐助はドアを閉めて靴を脱いでいる。



「間に合って良かった」



にっこりと笑う
会いたいと、口にしてしまったことが急に恥ずかしくなる。



「最初からこのつもりだったのか」

「ん?まずは抱き締めてよ?」

「寒いから嫌だ」

「じゃあ早く奥行ってよ」



冷えた上着を脱ぎながら上がり込む。



「ッ!」

「会いたかった………」



後ろから抱き締められた。



「冷たい………」

「すぐに温まるよ」

「温まってからくっつけよ」

「いいじゃん」

「よくない」




間もなく年が変わる。


癪に障るが、
片恋を患う1年よりはマシなのかもしれない。

この先もこうやって振り回されるのかと思うと気が滅入るけれど、
手が届く距離
伝わる温もり
通じる気持ち………



「寒いから離せ」

「もっと色気のあること言ってよー」

「…………」

「ッ!!」



やられっぱなしは悔しいから


息の根を止めるくらいに濃厚なキスをした


好き勝手にはさせないからな


宣戦布告と愛情表現
















11.12.31-12.1.1
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良いお年を&今年もよろしく

『七転び八起き』『七十八夜』
両サイトにて掲載。
佐助の相手は政宗様か漆黒様。
どちらにも使えるように名前は出さなかったのよ。

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あきゅろす。
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