願いと想い 8
ザァァ………────
佐助の心のように、空は暗く、大粒の涙を落とし続ける。
「10年間………お前は死んだのだと思ったまま、ずっと後悔していたんだ………」
佐助は顔を隠したままなので、表情は分からない。
「…………ムショを出てお前の墓のことを聞いたら、大将が教えてくれたよ………」
「……………」
「お前は…………生きてるって………」
気のせいだろうか。
佐助の声は震えていた。
「こんな………嬉しいことはなかったよ………」
真っ暗な世界に射し込んだ一筋の光り────
「なのに何故……………」
佐助の切な想いは政宗にも苦しいほど伝わった。
「………佐助さん………」
だが、それを受け止めるゆとりがないくらいに、政宗も苦しんでいたのだ。
「何とも思ってないって…………どういうことだ?」
「…………」
「俺はこの15年間、お前を忘れたことなんて一日もないぞ………」
佐助の声は低く、強い気持ちが籠もっている。
「お前だって、腹の傷痕を見れば嫌でも俺を思い出すだろう?」
「……………」
「背負いもんだって俺が柄を決めて彫らせた竜だぞ?………」
腹の傷痕が疼く………
「…………お前の身体には消えることのない俺の跡が付いているのに、何で…………ッ」
「ッ!?」
佐助はカバッと立ち上がり、政宗の腕を掴んだ。
「せめて…………俺のことを恨んでくれ………無関心ほどの苦痛はない………」
佐助は心の中を絞りだすように、想いを吐き出した。
「政宗………ッ!何故?今こうして俺の前にいるのに………何故俺を拒むんだ」
「佐助さん…………」
悲痛な叫びに政宗も泣きそうになる。
「痛ッ」
「…………来い…………俺のことを忘れているというなら思い出させてやる………」
「佐助さん!?」
佐助は政宗の腕を掴んだままカウンターをぐるりと回り込み、店の奥へと引っ張った。
「………男相手じゃなきゃ満足出来ないよう、その身体に仕込んだのも俺だ………」
「や………だ」
「…………来い」
「──────ッ」
政宗は、暖かみを感じない佐助の視線を恐怖に感じた。
『二度と失いたくない』
想いは同じなのに、
すれ違う意見。
失いたくないから………
得ようとする佐助
失いたくないから………
無いものとする政宗
すれ違う意見は互いを苦しめた………
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