思惑と翻弄 6
「ま……さむ、ね……」
愛しい人が、横恋慕をしている男の胸に身体を預けていたら
冷静沈着と言われている佐助でも動揺は隠せないだろう。
「佐助さん…………」
それは政宗にも言えること。
自分がよく知らない付き人の男と抱き合う姿は、埋まりかけていた15年の歳月に不信感を与えた。
「………政宗殿は、酷く心を痛めておいでだ………」
幸村の政宗を見る瞳は優しいが、慶次にはこの場を愉しむ笑顔に見えてゾッとした。
「お館様に会われて、今も1人では立てぬくらいに驚きで腰を抜かしておられる………」
政宗の誤解を解くような弁解だが、逆に佐助達の行動が際立つ結果になった。
それも計算の内だろう………
「久方振りにお会いした姿があのようでは、お心を察します………」
「あぁ〜………初日で疲れもあるだろうから、アパートに案内がてら、俺送ってくるよ」
佐助は流れを遮ったが、幸村は目を細めて佐助を見やる。
「佐助が行かぬとも、慶次で良かろう?」
「ッ──────」
「慶次、政宗殿を送って差し上げろ」
「ぇ………あ、はい………」
(なんて策士だ………)
幸村は、佐助と政宗を2人きりにすれば誤解は解けてしまうだろうから、敢えて慶次を渦中に投げ込むことで状況が悪化すると踏んでいるのだ。
慶次は嫌な汗をかきながら、佐助に目配せしようとしたが、佐助は表情を変えずに幸村を見たままだった。
「………旦那が言うならな………慶次、これ鍵」
「あ、はいッ」
佐助は慶次の方を見ずに部屋の鍵を投げた。
「俺の車で行け………ナビ設定してあるから分かるはずだ」
「…………はい」
一挙一動に意識しているのがよく分かった。
その場の空気がとても張り詰めているのに、幸村だけが笑みを浮かべていた。
「じゃあ慶次、政宗殿を頼んだぞ」
「あ、うん………じゃない、はい」
幸村は名残惜しそうに、ゆっくりとした動作で、政宗の体を戸惑う慶次へと預けた。
「………悪い………」
「いいんですよ………無理はしないで下さい」
俯いたままの政宗の小さい呟きに幸村は微笑む。
「………政宗……」
「……………」
「とりあえず今日はゆっくり休め………旦那に聞いたこととか後で連絡する」
「………はい………」
佐助と政宗は互いに目を合わせようとはしなかった………
視線を合わせ、
言葉を交わし、
体温に触れ、
吐息を絡めたら、
全てが1つになるというのに
すれ違う心、
2人の間に入り込む黒い笑み。
後ろ髪引かれる想いを抱きながらも、広がる2人の距離──────
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