視線と憂い 5
俺は佐助さんの後をついて行った。
認めたくないけど、佐助さんの大事な奴………
そいつは幸村の片恋の相手でもある。
そして幸村の側近になった。
幸村は権力を振りかざしたわけではないだろうが、佐助さんは我慢する結果になっているんだろう。
『この世界は縦社会』という言葉と、諦めたような苦笑い。
俺の居場所が守られて喜ぶべきなのに、あんな佐助さんを見て辛くなった………
認めたくないけど(何度でも言う)、自分の好きな奴が恋敵と一緒に時を過ごすなんて、佐助さんでも心中穏やかではないだろう?
いつも冷静な人が取り乱して涙を流させた相手なんだ、当然だよな………
傷ついているこの人を、
今すぐ抱き締めたい………
「………慶次」
「えっ!?あ、はい、」
手を伸ばしたら届く距離……
そんな下心を見透かされたみたいなタイミングで、心臓が跳ねた。
「ちょっと煙草吸う………」
「はい………」
虎のおやっさんの部屋へ向かうのかと思ったら、途中の中庭に面した渡り廊下で足を止めた。
「………ふぅ………」
佐助さんは、開けられた雨戸に寄り掛かって庭を眺めていた。
憂いた横顔………
どこか冷めているが、たまに慈愛を見せる、力強い光を秘めた切れ長の瞳。
意外に長い睫毛。
スッとした鼻筋。
たまに毒を吐く、作り笑いの多い唇。
俺より少し身長が低く、細い身体。
本当に手を伸ばしたらすぐ届く距離なのに、心はとても遠い。
俺を見て。
俺を選んで。
俺は貴方が欲しい。
俺は貴方が好きなんだよ。
「………どうした?」
「ぇ………」
「泣きそうな顔してるぜ?」
「…………」
泣きそうなのは貴方だろ?
「佐助さん………」
「ん?」
少し斜め上に視線を向けて俺を見ている。
段々目元に年齢を感じるようになった優しい瞳で俺を見ている。
今は俺だけを見ている………
「………疲れた顔してますよ」
「長距離走ったからかな……」
「俺が運転するって言ったのに聞かないから……」
「………そうかもな」
佐助さんは苦笑いをして視線を庭へと戻した。
「─────ッ」
俺は、本当に衝動的な行動をとった。
「佐助さん…………俺を……見て下さいッ」
「慶次…………」
佐助さんは俺の気持ちを知っているはずなのに、俺を邪険にしない優しさ。
俺は自惚れたくなる………
今、アイツは幸村と一緒だ。
それなら俺は入り込む余地はあるのか?
傷ついているこの人を、俺は
慰められるのか………?
「あ………まり無理されると………心配なんですよ……」
思わず抱き締めてしまってから、俺は苦しい言い訳をした。
「………俺はそんなにヤワじゃないっての」
佐助さんは俺の背中をぽんぽん叩いた。
この優しさは
辛く、幸せだ
このまま2人だけの時間が過ごせたら…………
「─────佐助」
幸村の声がして、
「…………ま……さ……」
目を向けるとそこには、
アイツの手を握り、肩を抱き寄せている幸村
幸村に身を預けているアイツ
泣いているのか?涙目だけど驚いているのは確かだ。
空気が凍るってこのことだよな………
俺は嫌な汗が吹き出すのを感じ、佐助さんから腕を解いて一歩離れた────────
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