意味と意志 0-2
※過去編
極道────
この世界はいつ命が潰えるか分からない。
死は常に隣り合わせ。
毎日生にしがみ付き、けれど何時でも死の覚悟は出来ている………
だからこそ無気力で『死にたい』なんて思う奴の恵まれた悩みなんか鼻で笑える。
『死にたい』なんて他人任せでのんきな台詞なんて吐いてないで、さっさと死ねるもんなら死ねばいい…………─────
額に押し当てられた拳銃は、重く冷たく、体温が奪われるように血の気が引いていった。
「……………どうする?死ぬか?」
瞬き一つしないで凝視する少年に、男は煙草を咥えたまま問い掛ける。
「刑務所入るとさ………その後はリッチな生活が保証されるから、俺が人を殺したって代わりに自首したがる奴がいるんだぜ?」
「……………」
銃は本物か?
撃てるわけない………
そんな疑問を払うかのように男は言葉を続ける。
「だから俺は何のためらいもなく引金を引ける………」
ガチャッ─────
2人しかいない部屋は、撃鉄が起きる音さえ大きく響いた。
「…………ん?」
男の視線は一点に止まった。
「……………お前………勃起してんのか………?」
「ッ─────」
少年の下着は膨らみを見せていた。
「ククッ…………死を実感して遺伝子を残そうとした男の本能か………ただのマゾで興奮したのか………?」
「ッ!」
額から拳銃を離し男は笑い、少年はカァッと赤くなった。
「普通なら金玉縮み上がるもんなのにな…………お前、やっぱりいいよ」
「…………」
「…………なぁ…………」
笑いながら呼び掛けた男は、ふっと真剣な顔つきに戻った。
「どうせ捨てる命なら、俺に預けてみないか?」
「ぇ…………」
「死ぬのはいつだって出来るし、この世界はスリルばかりで勃ちっぱなしだぜ?」
「これはッ………」
からかわれたような言い方に少年は気恥ずかしさを感じたが、男の眼差しは変わらないので、きちんとその瞳を真っ直ぐ見返した。
「生きる意味がないのなら、俺のために生きろ………」
「……………」
「だから…………こっちに来いよ………」
男の言葉は力強く、閉ざされた少年の心を奮わせた。
「本気で………?」
「あぁ」
「何で俺………?」
「んー………腕っぷしと度胸かなー………まぁ、一目惚れだよ」
「ッ───……一目惚れって」
思わぬ口説き文句に少年は口元が緩んでしまった。
「笑うとこじゃないけど、やっと笑ったな………」
「だって………」
「んー………俺、本気で言ってんだけどなぁ」
笑うと歳相応の幼さが滲む少年の愛らしさに、男も顔が綻ぶ。
「ホントに………俺でいいの………?」
隻眼には先程まではなかった強い光を感じた。
「あぁ………お前が欲しい」
「────…………ん………」
小さい頷きだが、大きな意志が含まれていた。
「俺、猿飛佐助」
「伊達………政宗……」
「ようこそ………政宗────」
差し出された手を躊躇なく、吸い寄せられるように握り返した………
人の道を逸れ、闇の世界へ堕ちたのか
生きようとする意味を見つけ、顔を上げて前進したのか………
今、歯車が回り始めた────
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