雨と訪問者  1



















小さな田舎町に、小さな珈琲店があった。




客足は然程多くはないが、マスターが淹れるコーヒーは美味しいと評判で常連客がついていた。







「フゥ…………」





今日は生憎の雨。



午後にならないと客は来ないと長年の経験で知っている。



店主は新聞を読みながら肺一杯に吸い込んだ白い煙を吐き出した。





雨の音と新聞を捲る音だけが、静かな店内に響いていた。




灰皿に一度灰を落とし、また口にくわえる。




ヘビースモーカーがコーヒーの味なんか分かるのか?と客に文句を言われたこともあったが、どちらも嗜好品。
扱うからにはそこらの素人より舌は確かだった。








「………午前は閉めるか………」





毎日同じような内容の新聞を見終わり、折り畳んで立ち上がる。






もう一度煙を吸い込んでから、煙草を消した。





「………………」




雨の振り止まない窓の外を眺めると、店の前に一台の黒塗りの車が止まった。





「…………さっさと閉めりゃ良かった………」




溜め息と共に煙を吐き出した。











カラン─────






一人の男は、店の中をキョロキョロ見渡してからカウンターに座った。





「ブルマン1つ」

「…………今日は店仕舞いだ」

「OPENの看板出てたよ?」

「……………」




顔は合わせない。








「……………探したよ………」




店主の背中に男は話し掛けた。





「こんな所にいるとはな………けどいい店だ」




雨の音と、男の声と、湯を沸かす音だけしか聞こえない。







「こっちを向けよ………」

「……………」





目は合わせないようにゆっくりと振り返る。





「フフッ……………老けたな………」




男は上着の内ポケットから煙草を取り出す。




カチャン────




ジッポ特有の音が響いた。





「まぁ〜そりゃそうか………あの頃は18〜9の小僧だったもんな」




男は上に向かって煙を吐いた。





「あれから………10年………いや、もっとか?」

「…………15年………」

「…………そんなに経つのか………」








ザァー…………────





無言の静寂は、やけに雨の音が大きく聞こえる。








「……………戻って来い…………政宗………」

「…………俺は足を洗った」





コーヒーの香りが店内に漂ってきた。





「…………大将が撃たれたんだ……」

「ッ!」

「一命は取り留めたが……意識は戻らない」

「虎のオヤジが…………」




男は煙草を揉み消した。





「跡目は…………?」

「…………真田の旦那を推す」

「何で……若頭のあんたじゃないのか?」

「俺は………この位置が気に入ってるんだよ………」




政宗と呼ばれた店主は震える手でコーヒーをカウンターに置いた。





「間違いなく抗争は起きる………それが弔い合戦なのか、跡目争いなのか………」

「……………」

「なぁ………今、お前がなんて呼ばれてるか教えてやるよ」

「……………」

「伝説の竜…………」






政宗は脇腹を抑えながら俯いた。






「戻って来い………鉄砲玉」

「俺は………足を洗ったんだ………!」

「そんな眼鏡を掛けたって、お前のギラついた片目は隠せないぜ?」

「俺は…………」

「背中の竜も…………」







カチャン────




「………閉めるには惜しい味だな…………」

「………」





男は漆黒の表面に視線を落とした。






「だがな………お前は戻ってくるんだ………」

「……………」

「一刻の猶予もないことは頭に入れておけ………」





男は封筒を取り出した。




「必要だったら使え」

「俺は……………戻らねぇよッ!」

「次はあんな下手は打たないし…………必ずお前を守ってやる」

「ッ…………」

「俺にはお前が必要だ………俺の元へ戻れ」









ザァァ…………─────







「また来る…………」

「……………」






政宗は脇腹を抑えた………


昔、男を守って撃たれた跡。






「佐助さん…………ッ!!」








雨のせいなのか────







古傷が酷く痛んだ……………















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壱伍今様メンバーの萌えを掻き集めて勝手に作成(←コラッ)

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あきゅろす。
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