返りと前進 14
人との関わりが煩わしくて
自暴自棄になって喧嘩に明け暮れているところを佐助に拾われた。
だからこそ、心を許せる相手は限られていた。
身を委ねている佐助はもちろん、
他に
豪快で器の大きい組長の信玄。
純粋で真っ直ぐな年下の幸村。
そして、今、政宗の心を見透かすように核心を突いた男
小十郎──────
『猿飛と何があった』
その問い掛けに、一度は引いた政宗の心の闇が押し戻されてきた。
「…………」
言葉を紡ぐことがなくても、
腕を掴む力が強くなったことで小十郎は意味を汲み取り、
不安に充ちた震える細い身体をもう一度強く抱き締めた。
「…………組長には会ったか?」
「…………」
力無く小さく頷く。
「そうか…………」
小十郎は髪を優しく撫でる。
心細くて堪らない今は、
その大きな手がとても心地がよく、素直に涙を溢すことが出来た。
「お前をこうすることは…………もう10年以上振りなんだろうな」
小十郎はゆっくりと、記憶を思い出しながら語った。
「この街もお前が居た頃とは大分変わっちまったろ?」
「…………」
「だがな………変わらねぇもんも大分あるんだよ」
「ん…………」
街並み、人、事柄…………
変わってしまったことは多く不安が増すばかり。
しかし、変わらないものがあるのだから不安を抱くなと遠回しに慰める。
長年顔を合わしていなくとも、
事情が分からずとも、
どんなことを求め、
どこまで応えられるか、
それは通じ合えていた。
「呼ばれてここに戻ってきたんだろ?」
「ん…………」
「まだ戻ってきて間もないんだから、その理由だけで十分だと思えよ」
「…………」
「俺はお前が生きていた、それだけで十分だ」
ぎゅうっと抱き締める。
その力強さが心の表れ。
そして、その想いをしっかり受け止め心を整える。
「小十郎…………」
「歳取ると涙腺が緩むな」
「あぁ…………」
軽く笑い合って身体を離し、
差し出された手拭いを受け取る。
「…………憂い顔にも色気が出たな」
「な、に」
「ククッ…………あの頃は真っ直ぐでギラギラしてた、ただのガキだったのになぁ?」
「急に変なこと言うな」
小十郎はビールを注ぎ、過去を懐かしみながら笑い、政宗は照れ臭くて視線を外す。
「…………これから跡目争いや報復なり、街は荒れるだろうな………」
ビールを一口飲んで、声色が変わった。
「………多分…………」
「だったら、そばにいてやれよ」
「…………」
「そして、」
視線をしっかり合わせる。
「もう一度………いや、何度でも奴を守ってやれ」
「…………あぁ」
迷いのない返事をして気づく。
涙と共に流れたのか
力強い温もりで消えていったのか
心は軽くなっていた。
「俺、戻るよ」
「あぁ…………」
不安はあれど、あの人を信じて。
これから起こりうる荒波に立ち向かって。
そばにいたい。
あの背中について行きたい…………
戻ろう
あの人の下へ
自分の居場所へ────
第2章
Take Back……了
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