建前と婉曲 4
屋敷の奥へと続く廊下。
幸村は歩みを止めて、政宗を振り返った。
「政宗殿………本当に帰って来られましたね………おかえりなさい」
「ただいま…………」
ニッコリと微笑む幸村に、強張っていた政宗の顔も少し緩んだ。
「………騒がしくて疲れましたか?」
「いや………大丈夫だ」
「きっと政宗殿が戻られてお館様も喜ばれますよ」
「…………」
この先の部屋には、狙撃されて意識の戻らない組長である信玄が眠っている。
「政宗殿………」
「ん?」
「お館様に会われるのは辛いですか?顔色が優れません」
「……まぁ………元気で騒がしいオヤジの姿しか知らないから………怖いよ」
政宗は本音を零して俯いた。
「大丈夫ですよ………きっとお目覚めになりますから」
幸村は政宗を抱き寄せた。
「ゆ、き……………」
まさか幸村にこんな慰められ方をされるとは思わず、抵抗しかけたが、
自分より大きくなった幸村の腕の中が意外にも落ち着き、政宗は身を預けてしまった。
「………それまで俺がこの組を守りますから、政宗殿………俺の側近として支えて下さい」
「ッ…………」
幸村の言葉に政宗は目を見開いた。
けれど、動揺は見せないように………
「側近って………お前には佐助さんがいるだろう」
「えぇ、無論佐助も頼りにしてますが、それはそれです」
政宗は、佐助の部下として戻るのだと思っていたので、この展開は予想外だった。
「お前の下なんてそんな大出世………俺には………」
「いいんです………貴方は佐助の下で燻るにはもったいない方だし、上下など関係なく政宗殿と………」
言葉の途中で政宗は幸村の腕から抜け出した。
「幸村………ここは縦社会だ」
「…………」
「昔はガキだったから舎弟みたいにしてきたが、今は立場がある………」
「………はい」
「だから………お前が命じるのなら、俺は………お前に従うよ」
「………えぇ………分かりました」
佐助との関係を知りながら求める幸村。
上司と部下であることを主張する政宗。
お互い本音を隠した遠回しなやり取り。
笑顔は勿論作り物。
しかし、政宗はまだ知らない………
幸村が自分に好意を抱いているのは分かっていても、
それが独占欲と性欲を帯びた愛情だということを。
「………政宗殿………行きましょうか」
「あぁ…………」
再び、最奥の部屋へ歩みを進めた──────
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