命令と従順 3
まだ組内は普段の様子とまでいかないが、
佐助が帰ってきて統率したため、落ち着きを取り戻していた。
「フゥ………」
佐助は応接間のソファに身を投げだし、煙草をくわえた。
「お疲れっす」
慶次はテーブルにコーヒーを置く。
「サンキュ………」
「………スゴイ騒ぎでしたね………」
「まぁ…………大方予想はしてた……が、それ以上だったな」
佐助は苦笑いしながら煙を吐き出した。
「………けど、騒ぎになるのは仕方ないですよ」
「………」
「まだ俺だって納得出来てねぇし、連れ戻したタイミングも理由も意味が分からないし………」
佐助はちらりと慶次を見てから、目を閉じて大きく息を吐き出した。
慶次の一歩も引かないような強い眼差しに観念したかのように………
「………カリスマ性」
「え?」
佐助は重い口を開いた。
「今はアイツのカリスマ性が必要なんだ」
「………どういう………こと?」
佐助は身を起こして煙草を灰皿に押し付けた。
そのゆったりとした動きに慶次はもどかしさを感じるくらい、次の言葉が気になった。
「………アイツはさ、人を惹きつけるモンがあるんだよ」
「………」
「アイツの周りには必ず人が集まった………不思議と気になるっていうか、周りが放っておかないんだよな」
佐助は思わず笑みが零れてしまう。
「多少性格に難ありだが、つい………な」
「…………」
話を聞く相手は慶次なのに、佐助は遠くを見つめて独り言のように語る。
「まぁ………歳を取ってもそれは天性で変わらないだろう」
「それで………?」
ただの惚気にしか聞こえない話に慶次は傷つき、先を求めた。
「………大将が撃たれた今、跡目争いは避けられない」
「………」
「俺は自身ではなく、まだ若い旦那を推してるし、内部分裂は必至だろう」
「それはまぁ………」
「………まとめる力が必要なんだ………」
佐助は慶次を見つめた。
「今を乗り越えるには、揺るぎない結束力が必要なんだ」
「けど!」
慶次は動揺する。
「そんな、急に現れた奴が幹部なんて言ったら余計に反発するんじゃ!?」
「それが俺や旦那が認めた男でもか?」
「ッ…………」
佐助の目の色が変わり、慶次は背筋がゾクッとした。
「いい機会だ………不穏因子は排除して、この組はより強固なものにする」
「そ………れが目的で………?」
「…………」
佐助が時折見せる冷酷な視線が幾分和らいだ。
「アイツを知れば俺や旦那の言葉が理解出来るさ………」
「…………」
敢えて内部反発を起こして人員の選別を企てているような佐助に、慶次は恐れを感じた。
「それにな…………慶次」
「は………い……」
「ここは縦社会だ………上の言葉が絶対なんだ……」
「…………だから、佐助さんは幸村に…………」
「…………幸村、さんだろ?」
自嘲ともいえる苦笑いをして佐助は立ち上がった。
どこか淋しげな背中に、慶次は痛む胸と抱き締めたい欲求を抑えながらついていった。
幸村は、政宗を自分の側近として組に迎えたのだ───────
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