過去と清算  15


















店を構えて十年近く。



繁盛しているとは言えないが、近所の常連客達のおかげで最低限の売上があったので店は長く続いていた。





毎日が穏やかに過ぎていき、
世話好きなおばさんに手を焼くこともあったが、静かで平和な時間が好きだった。




罪を背負い、過去から逃げて
喧騒な世の中から離れて暮らした十数年間。



真の幸せとは呼べないかもしれないが、幸せだった…………


自分が昔、裏社会の人間だったことを忘れる時もあるくらいに………


時間は何事もなく過ぎていたのだ…………








店のことは、常連客の老夫婦に全てを譲った。


同じ土地に同じ物を扱う店は必要ない、と言って政宗を羨ましがっていたので、
話をすると、とても喜び店を受け取ってくれた。




感謝してくれる笑顔に、言葉では伝えきれない幸せを感じた。




『ありがとう』



そして



『さようなら』





陽の当たる人達とはお別れだ。



政宗は闇の世界へ

太陽のような存在の愛する男の元へ…………







政宗は眼鏡を外す。




暗く汚れた世界を見ていた己の瞳を隠していたのだ。


瞳を通じて、素性がばれてしまうのではないか?

そんな不安ばかりで人の目がずっと怖かった………



けれど、


光に脅えて生きていく生活は今日で終わりだ………





政宗は眼鏡をゴミ箱に投げ入れ、


見えない右目を覆っていたガーゼを取り、革製の眼帯を装着した。



眼鏡を掛けてからは邪魔で使うことのなかった眼帯だが、久々だというのにしっくりと落ち着いた。




「…………」




政宗は左目を閉じて眼帯に触れる………




今までのこと………

これからのこと………

過去の清算………

未来を見据えて………




頭と心を整理するように、暫くそうしていた。





「─────」



次に瞼を上げた時、


その眼には迷いも曇りもなく、強い光さえ感じられた。




政宗は店のカウンターの椅子に掛けておいたスーツに袖を通す。



店のドアノブに手を添えて、一度振り向いた………







「…………さよなら────」





弱い自分に

逃げていた過去に

平和な生活に



別れを告げた─────








店の外には一台の車



寄り掛かるようにしていた男は、政宗の姿を見て、くわえていた煙草をポケット灰皿に入れた。





「…………おかえり」





今日は雨は降っていない………


明るい太陽の下、政宗は気持ちまで晴れやかだった。






例え裏の世界だとしても、

命懸けの毎日だとしても、

いつまで添い遂げられるか分からなくても………



この男と共に生きることを選んだ。




眩し過ぎる笑顔に目を細めて笑い返す………




「ただいま………佐助さん─────」














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